3月決算の上場企業の定時株主総会が終了した。2023年3月期の決算では、上場企業合計で過去最高益を更新するとともに、利益の株主還元が拡大した。6月8日時点における日本経済新聞の集計によれば、23年3月期の上場企業の配当計画は15兆2200億円となり、過去最大だった22年3月期を1000億円程度上回った。また「自社株買い」を通じた株主還元も拡大している。会社の資金で発行済み株式を株主から買い戻すことで、株主に資金を還元する措置である。上場企業全体で5月末までに5兆1600億円の自社株買い枠を設定したとされている。
上場企業による株主還元の拡大について、それを積極的に評価する見方が一般的である。企業が保有している資産のうち、十分な収益率を上げていない部分を資金として株主に払い出すことにより、企業全体の収益率が上昇し、株価の上昇につながることによる。これ自体は妥当な見方であるが、ここでは二つの留意点を指摘したい。
第一に、株主還元が大規模に行われることは、既存の上場企業に成長の余地が小さいことを意味している。既存企業が有望な投資機会を開拓し、それによって十分な収益率を確保できるなら、余剰資金による投資で株価が上昇し、株主は十分な利益を得られるからである。株主還元の拡大は日本の既存の大企業が成長の限界に直面していることの反映でもある。
第二に、こうした状況を前提にすると、株主還元は、成長の限界に達したセクターから潜在的成長力のあるセクターに、日本経済の資源を再配分するチャネルの一部と見ることができる。既存企業の内部で事業の多角化を通じて資源を再配分するのではなく、いったん投資家に資金を戻したうえで、資本市場を通じて資源を再配分するという仕組みである。この仕組みが有効に働くためには、資本市場、特に証券の発行市場の機能向上が必要とされる。