中国の習近平国家主席は、台湾統一について「決して武力行使の放棄を約束しない」と豪語している。2022年8月、ナンシー・ペロシ米下院議長(当時)が訪台した際は、中国人民解放軍は台湾を取り囲んで大規模軍事演習を強行し、日本の排他的経済水域(EEZ)内に弾道ミサイル5発を撃ち込んできた。まさに、「台湾有事は日本有事」といえ、岸田文雄政権には国民の生命と財産を守り抜く覚悟と準備が求められる。安全保障には軍事だけでなく、エネルギーや食料も含まれる。杉山主幹は「食料安全保障」に迫った。
前回書いたように、「台湾有事」が起きると日本のシーレーン(海上交通路)も危機にさらされる。エネルギー供給が大幅に減少する事態になるかもしれないが、そうすると何が起きるか。
飢餓になる恐れがある。
いま、われわれ日本人は、実際に摂取する熱量の10倍以上ものエネルギーを石油などのかたちで消費している。
なぜこんなに多いか。農作物をつくるための肥料・農薬の生産に始まり、農業機械を動かし、トラックで輸送し、食品加工をし、冷蔵・冷凍を行う、といった具合に、あらゆる場面でエネルギーを使うからだ。つまり、われわれは「エネルギーを食べている」のだ。
シーレーンが途絶えると、普段われわれが享受している「エネルギー多消費型の食料供給」は全く機能しなくなる。いくら食料自給率を高めていても意味がなくなる。
かかる状況になっても、日本は飢え死にすることなく、1年ぐらいは生き延びるようにしなければならない。どうすればよいか。
食料が備蓄されていることが必要だ。ところが、現状では、日本の食料備蓄は米が100万トンあるだけだ。これは1人あたりにすると8キロしかない。これで足りるだろうか。
米は100グラムで356カロリーと熱量は高いが、1人1日の摂取量である2000カロリーを満たすためには、毎日562グラムが必要になる。8キログラムの備蓄では、2週間分しかない。
それでは1年分のカロリーを米だけで満たすとしたら、どれだけの備蓄が必要かというと、1人あたり200キロの米が必要な計算になる。
いまの日本の1人あたりの米の消費量は50キロだから200キロというと、この4年分にあたる膨大な量だが、これだけあれば1年は食料不足にはならず継戦できることになる。200キロの米のお値段は、10キロあたりで2000円で調達するとして、1人4万円だ。
結構な値段だが、米は数年は持つので、古古古米ぐらいまで食べるとすれば、毎年の支出はこの4分の1であり、年間1人1万円で済む。また、備蓄を終えた後に飼料用や加工用に売却すればこれよりも負担は少なくなる。台風や地震などの他の災害への備えにも勿論なる。
戦争の抑止手段として食料備蓄は重要だ。敵に向かって「もしも攻めてきたら、たとえ完全に包囲されたとしても、最低1年は籠城して、必ずや反撃する!」と示しておくのだ。
もちろん、米にこだわる必要はなく、どのような食品でもよい。平時に加工しておけば、米よりも優れて安価な保存食もあるかもしれない。
日本は「シーレーン封鎖」という恫喝に屈することがないよう、備えを万全にして中国に見せつけておくべきだ。それが台湾有事への抑止にもなる。