政府は7月28日、脱炭素社会の実現に向けた「GX(グリーントランスフォーメーション)推進戦略」を閣議決定した。脱炭素に向けて、政府は今後10年間で官民合わせ150兆円超の投資が必要と試算。同戦略では、うち20兆円を新たな国債「GX経済移行債」で調達することなどを改めて示した。岸田文雄首相は「GXはわが国の成長戦略の中核」と語っているが、杉山主幹は「巨大なステルス増税」と喝破した。岸田政権は「サラリーマン増税」は否定したが、「増税・負担増路線」は変わらないのか。
日本政府は2050年にCO2排出をゼロにすること、すなわち「脱炭素」を目指している。これを推進するためとして、GX関連法がこの5月に成立した。いま、その具体的な施行に向けて政府は作業を進めている。
だが、その実態は何かといえば、「巨大なステルス増税」だ。
政府は「GX経済移行債」として累計で20兆円の国債を発行し、その償還のために「カーボンプライシング」を導入するとしている。具体的にはエネルギーへ賦課金を掛け、またCO2排出権を政府が民間に販売して、それによって償還するということだ。
つまりは事実上、エネルギーに税金を掛けることに等しい。
さらに重大なのは、今後10年間で150兆円、つまり年間15兆円の投資をする、という点である。この投資は官民合わせてのもので、民間の投資は政府による「規制と支援」により実現するとしている。
「規制と支援」により投資を実現するという話は、これまでの太陽光発電と全く同じ構図だ。太陽光発電は「再生可能エネルギー全量買い取り制度」という規制によって支援を受け、民間企業が投資を行ってきた。
これによって当該の民間事業は潤ったが、国民には莫大な負担になっている。いま再生可能エネルギー賦課金として国民が負担している。これは年間2.7兆円に上っている。
投資といえば聞こえがよいが、その原資は国民が負担するのだ。
政府はさらなる再生可能エネルギー導入に加えて、水素利用など、既存技術に比べて甚大なコスト増になりそうな項目を掲げている。「規制と支援」によって投資をさせると、当該事業者はもうかるが、国民には莫大な負担になる。
いまの消費税率は10%で、税収総額は約20兆円である。だから年間15兆円というと、何と消費税率で言うと7.5%分に相当する。
こんな大幅な増税を提案すれば、普通は国民の猛反対にあう。だが、国民にほとんど説明することなく法律の成立までこぎつけた。今のところステルス増税作戦は成功しているようだ。
政府はこの環境投資でグリーン経済成長を目指すとするが、これは昔から同じことを言っていた。そんなことは太陽光発電でも実現しなかった。ダイキンの調査では、夏場でも3人に1人がエアコンを使っておらず、その約半数の理由は「電気代がもったいないから」だ。熱中症死亡者のうちの9割以上がエアコン不使用だったという調査結果もある。電気代が高いと命に関わることもあるのだ。
政府は、政治家は、今後の電気代をどうするおつもりなのか。何円にするのか、明確な数値目標を掲げるべきだ。そのうえで、国民目線で政策を精査すべきだ。