「再生可能エネルギーのコストは安くなった、太陽光発電と風力発電は今や一番安い」という喧伝(けんでん=盛んに言いふらすこと)をよく聞く。もっとも極端なものには、「太陽光発電を導入すれば電気代がゼロ円になる」などという広告まである。
これはもちろん、パネルの購入費用などの初期投資を一切無視した話でナンセンスだ。
これよりはいくらかマトモな話として、「再エネ発電事業の入札価格が低くなった」とか、「再エネ由来の電気を家庭で購入するときの価格が安くなった」というものがある。これはどうか。
これも到底、額面通りには受け取れない。
なぜなら、再エネはあらゆる優遇措置を受けているので、本当のところのコストは見えにくくなっているからだ。
本当に太陽光発電や風力発電が一番安いなら、それを大量導入した国では、さぞかし電気代が下がって喜んでいるに違いない。だが、そんな話は聞いたことがない。
再エネ推進派が大好きなEU(欧州連合)26カ国のデータを見てみよう。
太陽光発電と風力発電の普及率(火力、原子力などを含めた全ての発電設備に対する割合)が多い国のトップ3は、デンマーク(61%)、ドイツ(32%)、アイルランド(36%)である(2020年のIEA=国際エネルギー機関=データによる)。
そして、実は家庭用電気料金が高いトップ3も、この3カ国なのだ。デンマーク(1キロワットあたり35ユーロセント)、ドイツ(32ユーロセント)、アイルランド(30ユーロセント)だ(21年下期のユーロスタット=欧州委員会の統計部局=のデータによる)。
再エネを増やせば、電気代は下がるどころか、上がる一方なのだ。
ドイツでは風が吹いて風車が一斉に発電すると国内で賄いきれず、周辺諸国にタダ同然の価格で押し売り輸出する。時にはお金を払って引き取ってもらうこともある。そうかと思えば、風が止むとフランスの原子力やポーランドの石炭火力発電の電気を高いお金を出して輸入している。
日本では、太陽光で発電した電気は、いつでも高い価格で電気事業者が買い取ってくれる。けれども本当の価値はもっと低い。太陽光パネルを家庭に設置しても、その分だけ火力発電の設備を減らすわけにはいかない。太陽が照らないときも電気は必要だからだ。風力発電も同様だが、本質的に二重投資なのだ。
家庭まで引いてある送電線も無くすわけにはいかない。そうすると、太陽光発電の本当の価値は、せいぜい火力発電の燃料を節約する分しかない。高い買い取り価格との差額は、すべて国民が電気代で負担している。
日本政府はいま「再エネ最優先」を掲げて、相変わらず太陽光発電と風力発電の導入に励んでいる。一体、電気料金はどこまで上がるのだろうか。