メディア掲載 エネルギー・環境 2023.08.01
月刊エネルギーフォーラム 2023年7月号「多事争論/G7サミットの評価」に掲載
温暖化最優先の政策を堅持
G7サミット成果を分析
燃料調達を巡る世界的混乱が落ち着きを見せる中で開催されたG7広島サミット。
さまざまに報じられたエネルギー・環境分野のコミットを専門家はどう評したのか。
今サミット(首脳会議)では、G7(主要7カ国)が結束してロシアを非難し、ウクライナを支援する意思を示した。中国に対しては、デカップリング(分断)はせずデリスキング(リスク軽減)を図るという表現が取られたた。これは、経済面などでの関与は続けるが、批判すべきは率直に批判し、打つべき手は打つ、と言う意味だ。
ウイグルや香港の人権問題については名指しで中国を非難した。また、名指しはせずとも明らかに中国を念頭に置き、軍事転用の恐れのある機微技術については輸出規制をする、重要鉱物などのサプライチェーンについては特定の国への依存を脱して多様化を図る、不公正な貿易・投資慣行の是正を求める、といったことが共同声明に盛り込まれた。
このように、今回のG7サミットの影の主役はロシア・中国だった。G7は、今後のロシア・中国との「新冷戦」にどのように対峙していくのか、その方針を明らかにした。
だが、この方針にエネルギー政策は全く整合しておらず、むしろ逆行している。気候・エネルギー・環境大臣会合のコミュニケを読むと、そもそもエネルギーの安定供給や安全保障に関する記述がほとんど存在しない。全編、ほぼ脱炭素の話で埋められている。その中身は相変わらずで、2050年脱炭素に向かってまい進するというものだ。しかしこれは新冷戦が始まる以前の世界観にいまだにどっぷりと漬かったままで、現実を無視している。
コミュニケを読むと、一連のエネルギー危機をすべてロシアのせいにしている。これまでの脱炭素偏重の政策こそが間違いであったことを全く認めていない。それどころか、ますますクリーンエネルギー投資を進めることでエネルギー安全保障と両立する、などとしている。化石燃料の供給体制をきちんと構築しないとエネルギー危機が起きるという明白な教訓は無視されている。
こうしたおめでたい夢物語が世界のほかの国々に通じるはずがない。今年予定されるG20(主要20カ国・地域)サミット(9月9日~10日)の議長国はインド、気候変動枠組み条約締約国会議COP28(11月30日~12月12日)はUAE(アラブ首長国連邦)である。いずれも途上国が議長国であり、G7に対して猛然と交渉してくるだろう。
今のG7の認識のように、「自然災害の激甚化などの気候危機が既に起きており、人類が破局を逃れるためには50年までにCO2をゼロにしなければならない」のであれば、「先進国はこれまでCO2を排出して世界に被害をもたらした損害を賠償し、かつ今後の途上国のCO2削減にかかる費用を負担すべし」という途上国側の論理に説得力がある。昨年エジプトで開催されたCOP27でこうした認識が定着してしまったので、先進国の費用負担の相場は、これまで約束してきた年間1000億ドルから1兆ドルに膨れ上がった。今年もこの構図は変わらず、先進国は苦しい言い訳に終始することになるだろう。
なお悪いことに、今サミットでG7は開発途上国の化石燃料事業への投融資を止めたことを誇り、今後も継続する意思を確認した。
ここ数年、G7と、その圧力を受けた世界銀行などの国際開発機関が主導して化石燃料事業を悪者扱いし、世界的な規模で投資・融資を止めてきた。その結果、今回のエネルギー危機が悪化したことを、途上国は骨身に染みて知っている。途上国はこれまで化石燃料事業を止めるように散々言われてきて、国際開発機関からの融資も受けられなくなってしまった。ところがエネルギー危機が勃発し、欧州も米国も化石燃料の調達に奔走し、途上国を助けるどころか、かえって問題を悪化させたのだ。欧米の二枚舌ぶりはひどかった。
現在のG7首脳は、米国、カナダ、ドイツ、フランス、英国のいずれもウクライナでの戦争前から脱炭素に熱心だった政権で、今でもその旗を降ろしていない。だが、これらの国こそ極端な脱炭素を推進した結果、世界のエネルギー危機を引き起こした張本人だ、と途上国は認識しているだろう。
これ以上化石燃料の否定を続ければ、G7諸国はますます産業空洞化が進み、経済は疲弊する。製造業はさらに中国などに移る。途上国は、本当に必要な化石燃料をきちんと供給してくれるOPEC(石油輸出国機構)やロシアになびき、インフラへのファイナンスや技術は中国に頼ることになる。G7が脱炭素と言い募るほど、G7は弱体化する一方で、途上国はロシアや中国になびくようになる。これで新冷戦を戦い抜き、自由や民主主義を守ることができるのか、 危惧される。