メディア掲載 グローバルエコノミー 2023.07.06
Le Monde(2023年6月23日)に掲載
この記事はアジア経済に関する月1回のコラムシリーズの1本として、2023年6月23日付けの仏ル・モンド紙に掲載されたものである。原文は以下のURLからアクセスできる:(翻訳:村松恭平)
https://www.lemonde.fr/economie/article/2023/06/23/au-japon-le-soutien-immateriel-mise-en-reseau-est-plus-efficace-que-le-soutien-materiel-subventions-aux-entreprises_6178875_3234.html
イノベーション支援には、補助金よりも民間および公共のプレーヤーの調整・統制の方が必要であることを日本の二人の経済学者が証明した。この研究についてセバスチャン・ルシュヴァリエが報告する。
国の「環境計画」への関与や産業主権(産業を国のコントロール下に置くこと)を再考する時、イノベーション政策に関する日本の経験を再発見することには利点がある。ただし、日本とフランスとでイノベーションのシステムの論理は大きく異なるため、その経験を美化したりフランスの状況にそのまま当てはめたりしてはならない。
日本の二人の経済学者、岡室博之氏と西村淳一氏による著書『研究開発支援の経済学——エビデンスに基づく政策立案に向けて』(有斐閣/2022年)が名高いエコノミスト賞を2023年に受賞したばかりだが、他方でイノベーションに関する日本の評判は近年下落している。経済協力開発機構(OECD)によると、研究開発 (R&D)費の公的支出の割合は、日本はたった約17%であるのに対してアメリカは約23%である。
というのも、イノベーションに政府は小さな役割しか果たさないというシリコンバレーの「神話」に反して、現実ではアメリカ連邦政府は軍事と安全保障関連の支出を通してイノベーションに(多くの場合、間接的にではあるが)巨額投資を行っているからだ。
さらに、公的なイノベーション政策は研究開発支出に限定されるわけではない。岡室氏と西村氏は確実な元データ(企業会計、政府予算、特許等)をよりどころとしながらイノベーション政策のデザイン自体を説明し、いくつもの指標(支援を受けた企業やその取引パートナーの生産性等)によって、そうした政策の実際の効果を測定している。
結果として示されたのは、一般の利益になるような方針を定める時や市場がプレーヤーを調整できない時にはイノベーションに関して政府が役割を果たすべき、ということだ。しかし、国もまた誤る可能性があるため政策を評価することが重要である。
この二人の研究者が指摘するところでは、産学官連携の構築は参加プレーヤーの生産性に効果を及ぼすだけでなく、取引パートナーにもプラスの影響をもたらす。
彼らはまた、さまざまな参加プレーヤーの利害および考え方が非常に不均質なため、モラルハザードやフリーライド(ただ乗り行為)の問題がすぐさま現れることも強調する。こうした状況では、公的補助金は相互信頼の形成を促進する一方、政府によるプロジェクト管理は参加プレーヤーのコミットメントを強化することで結果を間接的に向上させる。
二つ目の研究結果はクラスター政策(フランスの「競争力拠点政策(pôles de compétitivité)」に相当)に関わる。岡室氏と西村氏は二つの取り組み(一つは経済産業省のもの、もう一つは文部科学省のもの)を比較した。この比較によって示されたのは、非物的支援(ネットワーク形成)の方が物的支援(補助金)より効果的だということだ。さらに、経済産業省が調整したその計画は、ビジネスの波及効果を促進する体制のおかげで、企業の関与の観点でより良い結果をもたらした。
フランスが長い間「スタートアップ国家」の促進に終始した後に産業政策の長所を再発見する時、こうした検証は我が国の公的なイノベーション政策を再考する良い機会だ。研究開発の税額控除(イノベーションへのそのプラスの影響はまだ立証されておらず、そのコストは公会計にとって非常に大きい)のような仕組みは、社会全体にとって有益なプロジェクトに関わるイノベーションプレーヤーの調整を後押しするよりも、むしろ財務最適化を後押しするものだ。