米中大国間競争のはざまに置かれた日本の対応はますます難しくなりそうだ。しかも、その起点の一つが日本から遠く離れた中南米であるために情勢判断が難しい。
今月8日、米国紙『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』のスクープ記事に驚いた。中国がキューバで通信・信号などに関する諜報活動(シギント)の拠点設立を計画していると報じた長文記事だ。邦文版の同紙もその概要をただちにオンライン上に掲載した。
数時間後、同紙は社説「キューバに中国スパイ拠点設置の意味」を掲載し、そして米国が「呼び掛けるたびに新たな敵対行為で応じてくる敵対国の機嫌を取るのはみっともないし、危険でもある」と厳しい言葉で締めくくっている。
今、米国の財界の対中姿勢に関する情報交換に忙しい。その理由は米国の財界が全体として〝反中〟に傾けば、両国のはざまにある日本経済は一段と難しい対応を迫られる事になるからだ。
残念な事に連邦議会や軍関係者の意見は既に〝反中〟だ。これに関して既に「米国/気がかりは『裏庭』中南米」と題し、米国にとって重要な中南米に対する中国の関与を拙稿で論じた(昨年8月30日付)。
フロリダには重要な軍事施設が多数存在する。そのフロリダに近接するキューバで中国が諜報活動を開始すれば、冷戦時代におけるソ連同様、安全保障上、米国は警戒心を高めざるを得ない。すなわちキューバでの反米拠点は、米国にとって〝喉元に突き付けられた匕首(あいくち)〟のようなものである。
優れた政治学者のジョン・ラッセル・ミード氏は12日、WSJに「米国のバックヤード(裏庭)にロシア・中国・イランがいる」という小論を公表した。その中で同氏は「バイデン政権がモンロー主義の精神を学ばなければ、中南米の政情不安と諸外国の介入によって米国の安全保障に問題をきたす」と語った。
これに関して筆者は米国のシンクタンク、ブルッキングスで開かれた会合で、友人と語り合った事を思い出している。彼は次のように語った。「米国の最も重視する地域は歴史的に西半球だ。1939~40年に開催された国務省・陸海軍省の合同計画会議は100回。うち94回の最重要議題は中南米へのナチ政権の影響だった。そして41年9月、スターリンは〝日本をドイツから引き離す事はできないか?〟とモスクワを訪問したハリマン特使に聞いている」。それに対し筆者は「〝BIG・IF〟だが、その頃近衛首相が考えた通り、独ソ開戦で日本を〝裏切った〟独から日本が離れていたら歴史は変わっていたかも…」と語った。
昔も今も中南米は政情が不安定な上に米国以外の国々からの干渉を受けている。最近の例として、ホンジュラスは3月に台湾と断交し、今月12日に同国の大統領が習近平主席と会談し、両国関係を強化した。
昨年12月、半導体企業TSMCのアリゾナ工場開設式典で、創業者のモリス・チャン氏は「グローバル化と自由貿易はほぼ死んだ。復活を望む人は多いが、私はそう思わない」と語った。かくして我々は情勢判断を決して見誤ってはならない重要な時期に直面しているのだ。