メディア掲載  グローバルエコノミー  2023.06.26

対中政策はデカップリングからデリスキングへ移行

それでも米中関係改善を予想する見方は皆無

JBpress(2023年6月19日)に掲載

米国 中国 欧州

1. G7広島サミットの評価

519日から21日まで広島で開催されたG7首脳会合は世界の分断が進む政治状況の中で行われた。

それでも現在、世界が注目する主要テーマであるウクライナ問題、中国問題に関して西側諸国の結束を示すことができた。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が出席した効果も加わり、ウクライナを支援し、ロシアを批判する立場の共有も全世界に向けてアピールできた。

そこにはインド、インドネシア、ベトナム、ブラジル、太平洋諸国からクック諸島、アフリカからコモロなどグローバルサウスを代表する国々に加え、韓国、オーストラリアも参加し、G7と世界との連携を示した意義も大きかった。

このように、今回のG7広島サミットは西側主要国が結束を示しつつ、グローバルサウスおよびインド太平洋の首脳も巻き込む形で、世界の重要課題に関する意見交換を行い、一定の共通認識を共有する場となったという点で米国欧州の国際政治の専門家の間でも高く評価されている。

ある米国の国際政治の専門家は「G7 is back」と表現した。

米国のオバマ政権が国際的な合意形成の重点をG7からG20へとシフトさせたことから、最近はG7の役割が低下していた。

しかし、そのG20も中国、ロシアと西側諸国との間で外交、安全保障、イデオロギー対立が先鋭化し、合意形成が困難となっていた。

今回のG7広島サミットはそうした世界秩序形成の役割を担うG7およびG20の機能低下の流れに一定の歯止めをかける役割を担ったと評価されている。

G7 is back」という表現は、そうしたG7の復活に対する評価を示している。

以上は筆者が、G7開催直後の521日から約3週間、米国と欧州を訪問し、米中関係・中国問題の専門家との意見交換を行った際に得られた評価の整理である。

2. G7に至るまでの米国対中政策の歩み寄り

G7各国の対中外交姿勢を見ると、米国と欧州主要国の間にはギャップがある。

米国は超党派で対中強硬姿勢を強調する議会を中心に、中国に対する厳しい姿勢が目立つ。

対中強硬派の政治家や有識者は、専制主義VS民主主義のイデオロギー対立の枠組みを強調し、中国に対して米国が行ってきた関与(engagement)政策は失敗だったとの前提に立つ。

中国の軍事力拡大を防ぐためにその基礎となる経済発展を抑制する必要があると考え、そのための政策としてデカップリングを主張する。

バイデン政権もそれに呼応する形で、半導体輸出規制、気球問題に関する中国政府批判など、中国に対して厳しい姿勢を示した。

とくに20232月は、中国の気球が米国上空に達したため米軍機により撃墜され、さらには、ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)が中国の対ロシア武器供与疑惑を発表した。

この頃の米中関係が最悪の状況だった。

その後、気球問題に関して軍事基地偵察目的を示す明確な証拠が示されなかったほか、対ロシア武器供与疑惑についても証拠が明示されない状況が続いた。

米国の中国専門家の間では、これらの2つの案件において米国政府の初動が適切ではなかったとの見方が多い。

202311月にサンフランシスコで開催されるAPEC首脳会合の成功に向けて中国との協力が必要な時期に、バイデン政権は年初からの4か月を無駄にしたとの批判もある。

一方、EU主要国は、米国のイデオロギー対立を強調する姿勢はナイーブ過ぎると批判し、市場における競争者、グローバル共通課題における協力者、政治体制におけるライバルという3つの視点から複眼的に中国を見るべきであると主張している。

2023年に入ってから、ウルズラ・フォンデアライエン欧州委員会委員長が米国の対中強硬派が主張する対中デカップリングを否定し、デリスキングという考え方を提唱した。

これは中国への特定分野での過度な依存を抑制しながら、経済的な交流関係を拡大させていくという方針である。

この考え方はフランスのエマニュエル・マクロン大統領、ドイツのオラフ・ショルツ首相などとも共有されEU主要国の対中経済政策の基本方針になっていった。

フォンデアライエン委員長は330日に行ったスピーチの中で再度この考え方を強調した。

すると、427日に米国のサリバン大統領補佐官がスピーチの中で、米国政府も中国に対してデカップリングではなく、デリスキングの姿勢で取り組むことを表明した。

EUサイドはこの発言で示された米国の対中政策方針の融和方向への変化を歓迎した。

米国の変化の背景には、バイデン政権が米中関係の悪化傾向に歯止めをかける機会を模索していたこと、そこにフォンデアライエン委員長が米国政府と緊密な連携のパイプ役を果たしたことなどがあったと見られている。

このように、G7広島サミット開催前の段階において、米欧間の溝が徐々に縮小する方向で歩み寄る方向が見られており、そうした延長線上にG7における西側の結束が実現したと見ることができる。

3. G7共同声明で示された対中政策

以上のような米欧の対中政策の歩み寄りの中で、G7共同声明の中国に関する記述が西側諸国の対中政策の基本姿勢として示された。

その特徴について、米国欧州の中国専門家等の評価を整理すれば以下の通りである。

1に、全体のトーンは中国に対して融和的なEU主要国の主張に基づくもので、米国がそれを受け入れる内容だった。

具体的には、中国に関する関与の姿勢の肯定、中国の経済発展を妨げない方針、デカップリングを否定しデリスキングの必要性を示したことなど米国の対中強硬派の主張と相容れない内容が明記された。

2に、今回の中国に関する記述は、G7共同声明における1国に対するコメントとしては異例に詳しい内容だった。個々の指摘については米国の意向が尊重された内容となっている。

3に、詳しい記述の個別の内容については中国を過度に刺激しないようモデレートな表現が工夫されており、中国に対する配慮が伝わる内容だった。

結論としては、対中政策方針については米国と欧州の間でギャップが存在していたが、共同声明ではその間でバランスの取れた内容に着地させることができたと評価されている。

G7の共同声明がこのような形でバランスの取れた内容となったことがG7の結束を示したとの評価については多くの専門家がほぼ一致している。

ただし、共同宣言が言葉の上でうまくバランスがとれたとはいえ、米国の対中政策方針が大きく変化したと見るのは過大評価である。

これはあくまでも言葉の上での合意であり、米国もEUも基本的な対中政策方針に変化はないと見るべきだと指摘する専門家は少なくなかった。

4. 今後の米中関係の行方

米国政府はG7の少し前から中国との対話の回復に動き、中国もそれに呼応する形で米中間の重要会談が続いている。

58日、ニコラス・バーンズ駐中米国大使と秦剛外交部長が北京で会談、10日にはサリバン大統領補佐官と王毅政治局員がウィーンで2日間にわたり合計10時間の会談を実施した。

523日には謝鋒駐米中国大使が着任(米中関係の悪化を背景に着任が延期されていた)、25日には中国の王文濤商務部長がワシントンDCでジーナ・レモンド商務長官と会談、翌日26日、同部長がデトロイトでキャサリン・タイUSTR長官と会談を行った。

さらに、61819日にはアントニー・ブリンケン国務長官の訪中が発表されるなど、5月以降米中対話が活発化している。

ただし、これで米中関係が改善するとは見られていない。

今後、米国は202411月の大統領選挙に向けて選挙キャンペーンが本格化する。

その中で与野党が唯一一致している対中強硬姿勢がますます強調される可能性が高いため、米中間で対話が増加しても関係改善は期待できない。

対話の増加は武力衝突を回避するための危機管理を強化する効果は期待できるが、それ以上のものにはならない。

以上の点は今回の出張中に筆者が面談したすべての欧米の専門家の一致した見方である。

一部の米国の専門家は次のように指摘する。

もし2024年秋の大統領選挙でジョー・バイデン大統領が勝利すれば、2期目のバイデン政権は議会の反発を覚悟のうえで対中融和政策を推進する可能性がある。

一方、ドナルド・トランプ前大統領が勝利すれば、どのような対中政策をとるか不透明であり、米中関係がさらに悪化するリスクを覚悟する必要がある。

その場合、米中関係のみならず米国と欧州の関係についても再び最悪の状況に陥ることが予想される。

このため、EU側は大統領選挙の結果が判明するまで、米国に対して半信半疑の見方を続けざるを得ない。

米国の不安定な国内政治状況が米中関係、米欧関係の双方にとって重大な不安要因である。