ワーキングペーパー  グローバルエコノミー  2023.06.15

ワーキング・ペーパー(23-010E)A Monetary Equilibrium with the Lender of Last Resort

本稿はワーキングペーパーです。

経済理論

金融危機が起こるたびに、中央銀行の「最後の貸し手」としての役割の重要性が再認識される。特に、20078年の世界金融危機でみられたように、通常の公開市場操作を超えた大型介入が多くの先進国で採用されている。直近の例では、シリコンバレー銀行の破綻から二日後にBank Term Funding Program (BTFP)がつくられた。

本論文では、流動性危機が内生的に生じるような貨幣モデルを構築して、最後の貸し手の経済学的機能および帰結を考察する。まず、最後の貸し手が存在することで、危機時の流動性が確保され経済厚生は上がることが示される。しかしその反面、事後的な流動供給は個々の銀行の準備率を減らす誘因にもつながるため、流動性危機の事前確率を引き上げてしまう。

本論文ではさらに進んで、最後の貸し手が危険資産への投資、つまり銀行のモラルハザードを引き起こす条件を導出する。当然のことながら、中央銀行との貸借における有限責任が必要条件である。経済学的により重要なのは、中央銀行の危機に対するスタンスで、本論文では、モラルハザードの発生を決定付けるのは、担保資産の市場価値以上に貸し出す拡張的政策であるという結果が得られた。これは、伝統的貸出政策(もしくはバジェット・ドクトリン)と違い、担保資産について正のヘアカットを課さない。2023312日に発表されたBTFPで、(十分に下がりきった)市場価格ではなくもともとの額面価格で担保資産を評価して貸し出すことを明記しているが、まさにこれに対応している。よって我々の主要な貢献は、流動性危機時の拡張貸出政策は経済厚生を高める効果を期待できる反面、事後の救済が織り込みされていることから、危機の事前確率が上がるだけでなく、モラルハザードによる銀行倒産を引き起こしかねない、という意図せざる副作用発生のメカニズムを経済学的に明らかにするものである。

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ワーキング・ペーパー(23-010E)A Monetary Equilibrium with the Lender of Last Resort