メディア掲載  グローバルエコノミー  2023.06.06

欧米諸国とは違い、アジアでは高齢者の貧困率が減少していない

Le Mondeに掲載(2023年5月19日)


この記事はアジア経済に関する月1回のコラムシリーズの1本として、2023年5月19日付けの仏ル・モンド紙に掲載されたものである。原文は以下のURLからアクセスできる:(翻訳:村松恭平)
https://www.lemonde.fr/idees/article/2023/05/19/en-asie-contrairement-aux-pays-occidentaux-le-taux-de-pauvrete-des-personnes-agees-ne-diminue-pas_6173995_3232.html

東アジア

研究者のセバスチャン・ルシュヴァリエはこのコラムの中で、韓国だけでなく中国、台湾、日本でも、65歳以上とそれ以外の人々との間で富の格差が広がっていることを指摘する。


東アジアではこの数十年の目覚ましい経済発展の結果、国民全体の貧困率は大きく低下したが、高齢者においてはそうではない。このことは、比較しうる発展レベルの欧米諸国の大半で見られる状況と違っている。韓国・日本・台湾・中国の経済学者および社会学者からなる国際チームが、この格差の原因に関心を向けた(« What Makes Old-Age Poverty in East Asian Societies So High ? », Inhoe Ku, Wonjin Lee, Aya Abe, Zhu Mengbing, Li Shi, Chungyang Yeh, Dongjin Kim, LIS Working Paper Series nᵒ 842, 2022)。

彼らは相対的貧困率を算出するために、慣例によって貧困ラインを可処分所得の中央値の50%に定めている。国民全体での貧困率は中国で最も高く(21%)、台湾で最も低く(10%)、日本と韓国はそれらの間にある(それぞれ16.1%14.6%)。ちなみに欧米でのこの貧困率はデンマークの5.7%から米国の16.7%まで幅がある。

65歳以上の高齢者においてはその結果は大きく異なっている。最も顕著なケースは韓国であり、この年齢カテゴリーの貧困率は47.2%に達している! (全国民における)平均貧困率との差は台湾でも大きい(26%)が、中国(27%)と特に日本(19%)ではより小さい。他方、デンマーク、フィンランド、ドイツ、イタリアではこの差は存在しないかあるいは僅かであり、米国ではもう少し大きいぐらいだ。西洋での唯一の例外はオーストラリアで、この貧困率(26.5%)は国民平均の2倍以上を超えている。

必要不可欠な包括的アプローチ

アジアと欧米の国々の間のこうした違いを理解するには、包括的アプローチを採用する必要がある。というのも、多くの要素がこうした数値に影響を及ぼしている可能性があるからだ。たとえば、社会人口統計学的な変数(年齢、性別、教育レベル、家族の他の構成員との居住地の近さ)、収入源(定年退職後を含めての労働、家族内の財産移転、社会保障制度)、資産(金融資産や住居の所有)といった要素だ。

研究者たちはこれらの決定要素の影響を分析するために、10カ国を対象とした2013年の比較しうるデータを用いている。彼らが導き出した結果は一部の先入観と食い違っている。

まず初めに、教育の大衆化がより古くにもたらされた日本を除き、世代的な影響のために他の人々より平均して低い高齢者の教育レベルが彼らのより深刻な貧困の原因となっている。それから、数世代での同居生活——この形はアジアで減少しているが、今なお欧米諸国よりずっと多い——が貧困率を減らしている。

また、公的支援の規模が欧米とアジアの間の高齢者貧困率の差の重要な原因になっている一方、家族内の財産移転と労働所得の大きさがこの差を縮めている。それゆえ仕事を続けることが多くの高齢者にとって重要であることが理解できる。最後に、金融資産と住宅所有を考慮に入れても、東アジアでは欧米諸国と比べて貧困レベルの変化が少ない。

結局のところ、高齢者の経済的豊かさは公的な所得移転の大幅な増加なくして保証され得ない。こうした所得移転の様々なレベルは、アジア諸国の間で見られる違いもまた説明する。