米中間の経済関係に潮流の変化が生じている。我々はこの動きから目を離してはならない。
在中国米国商工会議所(AmChamChina)の報告書(3月発表)に依れば、米系企業の将来の対中投資姿勢に関して、変化が生じている。中国を最優先投資先(top priority)と見なす企業の回答比率が、最優先ではないと回答した比率を過去5年間で初めて下回ったのだ。同時に中国の投資環境に関しても、改善(improving)と回答した企業比率が、そうでないと回答した企業比率を過去5年間で初めて下回った(China Business Climate Survey Report; 中国商务环境调查报告) (2を参照)。我々は中国が政経不可分である事を忘れてはならない。
台湾を巡ってglobalな形で諸問題が複雑に交錯し始めている。近接する日本にとっては重要な事態だ。
読者諸兄姉ご存知の通り、仏大統領の訪中は様々な話題を生んだ。帰途の専用機(«Cotam Unité»)の中でジャーナリストとの対話がPolitico.euに掲載され、そして帰国直後には独占interviewが仏Les Echos誌に掲載された。筆者はそれらを読み困惑している。大統領は独自の“戦略的独立性概念(le concept d’autonomie stratégique)”を抱き、「ウクライナ危機でさえ解決出来ないのに、欧州は台湾に関して、何か信頼されるような事を言えるのか(Les Européens n’arrivent pas à régler la crise en Ukraine, comment pouvons-nous dire de manière crédible sur Taïwan)」と語った。筆者は、台湾問題どころか欧州の問題でさえ解決出来ない大統領の“戦略”とは果たして一体何なのか、理解出来ない。これに関して、独Die Zeit誌は、マクロン氏と仏大統領府報道官との発言の差を極めて“冷ややか”に伝えている(次の2を参照)。
仏大統領の訪中に関し中国は大変喜んだであろうが、馬英九元台湾総統の訪中には複雑であったに違いない。馬氏は湖南大学で“One China” policyを語ったものの、それは中国側の考える“One China” policyではなかった—「中華民国の憲法上は、全てが一つの中国に属しています。私達は台湾地区、皆さん達は大陸地区(在中華民國憲法上都是屬於一個中國。我們是台灣地區,你們是大陸地區)」と語った。馬氏の発言に関して筆者は今、中台米が“One China”に関し合意した1972年上海コニュニケの時の事を、専門家の阮銘氏が記した言葉を思い出している(阮銘氏 (b. 1931~) は嘗て中国共産党のエリートであったが、のちに台湾に移り台湾総統府国策顧問を務めた人)。
それぞれが受け入れる事を意図したstrategic ambiguityとして“中国一国論”は曖昧な言葉で表現され、3者が心の中で自由に描いたのである。「毛沢東の“一つの中国”は共産中国、蔣介石の“一つの中国”は中華民国、そしてニクソンの“一つの中国”はそれら両者(毛澤東的“一個中國”是共産中國、蔣介石的“一個中國”是中華民國、尼克森的“一個中國”則兩者皆是)」と阮銘氏は記している(«歴史的錯誤»)。
3月下旬、OECD主催のAI関連国際会議(AI in Work, Innovation, Productivity and Skills (AI WIPS))にonlineで参加した。
AIが職場、研究開発、生産性、そして技能に与える影響に関し、数多くの専門家が語る4日間の会合であった。AIを最大限に“利用”したいと考える筆者は、Paris時間の午後に開始したために睡魔を感じつつ一聴衆として参加した。現在注目を集めているOpenAIからはMITで工学学士として優秀な成績で卒業した陈马克(Mark Chen)氏が発言した。残念だった事は、日本人の発表者が一人もいなかった事だ。米国の友人からは「日本はOECDのメンバー国? ジュン」と冷やかした伝言をもらい、悔しい思いがした。
友人達とは今、生成AIに関し3種類の問題—即ち①algorithmやdataの問題を起因とする誤情報(misinformation)、②発信者が故意に発する偽情報(disinformation & misleading)、③受信者が知識不足からAI情報を鵜呑みにして誤解する事(misreading & misunderstanding)—を解決する方策を語り合っている—例えば、AIを様々な視点から監査するalgorithmic auditingや悪質なデータ操作(data poisoning)の防止策等だ。
AIは様々な課題を内包しているが、優秀な開発者と秀でた利用者によって長足の進歩を遂げるであろう。そして主たる“成長のエンジン(engine of growth)”となるであろう。だが、Stanford大学が4月に発表した資料(Artificial Intelligence Index Report)を覗いても、また欧州の友人が示してくれたOECD集計の資料(p. 4参照)を見ても、日本の姿が見えてこない。AI技術の開発・活用両面で“不成功”に終われば、日本は“失われた年月”を更に重ね、人口減少と高齢化が進む中で国力が一段と減衰するのでは、と心配している。
“国力”を計る事自体難しいが、国際関係論ではまず名目GDPと人口を見る。名目で考える理由は、緊急事態(戦争や災害)の際、資材・技術を海外から調達しようとした時には原則“時価”で取引されるからだ。日本の米ドル建てGDPを対米比で表したグラフを示した(p. 5参照)。これに依ると日本の今のGDPは米国の16%(約6分の1)。最高水準(1995年、73%)に比べると“見事な程”の後退だ。ちなみに嘗て16%だった時代は1968年だ。1970年の大阪万博の直前は“上り坂の16%”だったが、2025年の大阪万博を控える現在は“下り坂の16%”だ。AI技術を含め、我々は成長のエンジンを真剣に再点検する必要があるのではないか。
3月下旬、東京国立博物館の創立150年を記念して開催されていた展示会「王羲之と蘭亭序」を訪れた。
4世紀の“書聖”の作品を中国の友人と共に鑑賞出来なかった事が残念だ。そして『晉書』の中の王羲之の記録を思い出している—政(まつりごと)は道(どう)を以て勝(まさ)り、寛和を本と為す。力(つと)めて武功を争(きそ)うは、当(まさ)に作(す)べき所に非ず(政以道勝寬和為本、力爭武功、作非所當; Politics can be achieved successfully by dint of Daoism, being based on tolerance and peace; striving for martial arts isn’t what should be done)。