メディア掲載  グローバルエコノミー  2023.04.24

「ベトナムでは、気候温暖化が学生たちの数学テストの成績にマイナスの影響を及ぼしている」

Le Mondeに掲載(2023年4月14日)


この記事はアジア経済に関する月1回のコラムシリーズの1本として、2023年4月14日付けの仏ル・モンド紙に掲載されたものである。原文は以下のURLからアクセスできる:(翻訳:村松恭平)
https://www.lemonde.fr/education/article/2023/04/14/au-vietnam-le-rechauffement-climatique-a-un-impact-negatif-sur-les-resultats-des-etudiants-aux-tests-de-mathematiques_6169449_1473685.html

東南アジア

研究者のセバスチャン・ルシュヴァリエはこのコラムの中で、ベトナムの経済学者によって行われた気温上昇——それは脳の血流を減らすという——と数学問題を解くことの関連性についての調査の結果を報告する。


私たちの社会に対する気候変動の影響の例は多くあり、様々な分野に及んでいるものの、教育と認知能力への影響を分析した研究は比較的少ない。しかし、ベトナムの経済学者Tien Manh Vu氏により、気温上昇が学生たちの数学テストの成績に重大なマイナスの影響を及ぼしていることが示された(« Effects of heat on mathematics test performance in Vietnam », Asian Economic Journal, 2022)。

この研究は諸先行研究の結果をより強固なものにしたが、発展途上国にフォーカスした最初の研究の一つにとどまっている。だがこのテーマは、より暑さに晒され、気候温暖化の影響を減らすための手段を持たない貧しい人々が暮らす酷暑地域に位置しがちな国々にとっては特に重要だ。このテーマはまた、教育に巨額の投資をしているベトナムにとって非常に重要である。

個人の成果を決定づける主要なメカニズムは、暑さへの耐性と関係している。今回の場合、数学の問題を解くことは、前頭前皮質の領域に位置する脳の機能および神経回路に左右される。さらに、高い気温は脳の血流を減らし、したがってテストの成績を低下させるという。

30万人の学生

このタイプの研究は方法論の問題をいくつも提起し、そして最高品質のデータを必要とする。本論文の成果はこれら2つの難題に挑んだことだ。Tien Manh Vu氏は、2009年7月にベトナムの複数の大学で実施された入学試験の数学テストの成績と、米国の気象観測機関が収集した非常に詳細なデータとを比較対照している。これらのデータの位置情報により、試験場所と試験を受けた約30万人の学生をデータに結び付けることができる。

さらにTien Manh Vu氏は、できる限りうまく影響を測るために方法論において慎重を期しており、それに自らの研究のいくつかの限界を認めている。たとえば、データが古いということだ。2009年には今日ほど気候温暖化が強く感じられていなかった。

実際のところ、この論文では気温が異なる地域間の暑さの影響をある特定の時点においてしか比較できず、ある特定の場所における気温上昇の影響を直接的に測ることはできない。たとえば、入学試験が実施された2009年7月の平均気温は28°Cを超えていたのに対し、1950年から2009年までの平均気温は約25.5°Cだった。そして、暑さの影響をさらに高める湿度の効果が考慮に入れられていない。

最も影響を受けやすい農村の人々

詰まるところ結果ははっきりしている。気温が1°C上がると、数学テストの平均点がわずかではあるが重要な低下を示す。こうした結果は特に学生たちの出身地方——気温がより高かったり低かったり——に左右されない。このことは、酷暑地域に住む人々は気候条件によりうまく適応するという神話と食い違っている。さらに、熱波の影響は格差を生む源になっている。女性と農村地域の住民は最も影響を受けやすいのだ。

気候温暖化は私たちの認知能力に重大なマイナスの影響をすでに及ぼし始めている。この影響は教育への投資によるプラスの効果を相殺してしまうかもしれない。エアコンのような設備への追加支出は、たとえば気候に対してのように、ほかの負の外部性を生み出しうる。

フランスでは近年、熱波によって試験場所に適さなくなったことが理由で、いくつかの試験がすでに延期されている。おそらく私たちは、気候温暖化によるこうした悪影響に適応するために、学校のスケジュールや試験日程を根本から見直さざるを得なくなるであろう。