メディア掲載  外交・安全保障  2023.04.19

韓国のウクライナ軍事支援に対する建前と本音

Wedge ONLINEに掲載(2023年4月14日付)

朝鮮半島 ウクライナ

ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始してちょうど1年目の224日に、各国政府が声明や新たな対ウクライナ支援策を発表した。各国の声明は国際法違反を犯し続けるロシアを糾弾する語句が随所に見受けられるのに対して、「ロシア」という単語が抜けた声明を発表した国が韓国である。

<ウクライナ戦争勃発1年に関する外交部報道官声明(筆者仮訳) >
1. 韓国政府はウクライナ戦争1年を迎え、ウクライナの主権、領土保全と独立は尊重されなければならないという一貫した立場を再確認する。
2. 韓国政府は国際社会の責任ある一員としてウクライナ戦争の終息と平和回復に寄与するための国際社会の多様な外交的、経済的努力を支持し、これにさらに積極的に参加していく。
3. 韓国政府は戦争で苦しむウクライナ国民のために今後1億3000万ドル規模の追加支援を公約し、これを通じて地雷除去を含む人道的支援、ウクライナ財政支援、電力網復旧などインフラ構築支援および無償開発協力事業を通じた再建支援などを中心に可能な支援を持続していく計画だ。

戦争初期に、自由主義諸国が自国の議会でウクライナのゼレンスキー大統領によるオンライン演説が行われ多くの議員が耳を傾けたことに比べ、韓国国会での演説では空席が目立ち、韓国政界での関心が低かったとされた報道は記憶に新しい。また、対ロシア制裁についても、当時の文在寅政権は当初独自制裁を課さない意思を示したものの、西側諸国に同調せざるを得なくなり遅まきながら制裁策を発表した経緯がある。

ウクライナを巡る問題について韓国で直接話を聞くと、日本で報道を見るだけでは得られない温度感の違いがわかる。有識者やメディア関係者は一様に、「そもそも韓国社会は他国に比べてウクライナ問題にそれほど関心がない」と話す。

ウクライナ戦争が起きた224日は韓国大統領選(39日)の終盤戦と重なり、内政に関心が集中したことに加えて、ウクライナ戦争開始後の物価高や経済状況の悪化によって、多くの国民の関心は自らの生活に集中しているというのだ。北朝鮮の度重なる軍事挑発にも目を配る必要があり、どうしても優先順位は下がるという。

世界から兵器工場として期待される韓国

こうしたロシアに対する微妙な表向きの態度に加えて、韓国政府は紛争当事国への殺傷兵器の供与を明確に否定している。しかしながら、現実には韓国による他国を経由した対ウクライナ軍事支援が昨年から実施あるいは実施されている模様だ。

昨年529日にはポーランドが「AHSクラブ」自走榴弾砲(キャタピラなどの機動部分が韓国製K-9の部品を使用)のウクライナへの供与を決定し、実際にウクライナで戦闘に参加している。昨年9月には韓国がチェコを経由して29億ドル相当の地対空ミサイルなどの攻撃兵器をウクライナへ提供したと報道されたが、韓国政府はその事実を否定したとされる

ウクライナとロシアの間の戦闘において長距離打撃が可能な兵器による砲撃戦が活発化すると、「戦場の女神」と呼ばれる榴弾砲の重要性が増した。西側各国が自国の自走式や牽引式の榴弾砲をウクライナに供与したが、同時に直面した問題は、榴弾砲で大量に消費される北大西洋条約機構(NATO)標準155ミリメートル(mm)砲弾の安定的な供給力確保である。

ウクライナ戦争が始まって1周年の224日に尹錫悦政権の関係者は、韓国メディアに対して、米国がウクライナ支援のための砲弾を韓国から輸入する意思を示したとされる。155mm砲弾は韓国の歴史ある防衛産業企業の一つである「風山(プンサン)」で生産されており、すでに昨年末にも米国へ教育目的で輸出されたようだ。同社製の砲弾は各国からの関心が高く、昨年米国で行われたAUSA2022(米国陸軍協会総会および展示会)では、同社が設置したブースに世界各国から問い合わせがあったとされる

これに関連して、米紙ニューヨークタイムズは、米国情報当局が対ウクライナ軍事支援をめぐって議論を交わす韓国政府高官同士の通話を盗聴したと報じた。同文書の真偽は未だ不明ではあるが、仮に本物だとすると、対ウクライナ軍事支援を巡る韓国政府の苦悩ぶりが明らかになったことになる。

このように、韓国政府は対ウクライナ軍事支援に消極的な姿勢を表面上は堅持する一方で、欧州における韓国防衛産業の躍進は続きそうだ。ウクライナと国境を接するルーマニアは韓国防衛産業数社と協力推進のための了解覚書(MOU)を締結し、すでに輸出へ向けた足場作りが進められている。スロバキアとリトアニアも韓国製装備品導入に強い関心を示している。

今年も昨年に続き、欧州諸国による韓国装備品契約の知らせが多く届きそうだ。事実上韓国は欧州諸国にとって、完成装備品や弾薬などの軍事物資を供給する兵器工場となっているといっても過言ではない。

韓国はどうNATOと協力していくのか

尹政権は正面からの対ウクライナ軍事支援への消極姿勢とは対照的に、政権発足直後からNATOとの協力関係強化に積極的だ。

昨年6月にスペイン・マドリードで開催されたNATO首脳会議に尹大統領が出席。ストルテンベルグNATO事務総長との会談において、2006年に締結されて以来、改定を重ねてきた「韓国・NATOパートナーシップ協力プログラム」を今後より深化させていくことに合意した。

926日にNATO理事会は在ベルギー韓国大使館がNATO代表部も兼ねることに合意した1122日付で業務開始) 。これに先立つ昨年5月には、わが国よりも早く、エストニアの首都タリンにあるNATOサイバー防衛協力センター(CCDCOE)のアジア初のオブザーバー国になり、昨年11月にはエストニアで開催された世界最大級のNATOサイバー防衛演習に韓国の情報機関である国家情報院のスタッフが参加したとされる。

こうした関係強化の動きの背景には、NATOの関心をインド太平洋地域に寄せたい韓国の思惑がある。北朝鮮と中国という自国を取り巻く脅威がより深刻化する中で、米韓同盟を基本とする国防力強化と日米韓安保協力の復元・強化だけでなく、NATOとの相互運用性強化を図ることで、抑止力をより強化したい思惑が垣間見える。

一部報道では、米韓連合司令部とNATO軍司令部の指揮統制(C4I)システムを連携させ、米軍主導で米韓連合司令部とNATO軍司令部による共同作戦が可能な基盤を構築するのではないかとの観測が提起された 。今年1月にストルテンベルグNATO事務総長が訪韓した際にも、「相互運用性の向上」について再度確認されている。

協力一辺倒ではない側面も

ところが、韓国軍の元将官に一連のNATOとの関係強化の流れについて話を聞くと、「国防部は対北抑止力向上のために自国の戦力向上と米軍との連携強化で精一杯で、とてもNATOとの連携にまで考えが及んでいないのではないか」との答えが返ってきた。筆者の見立てでは、外交安全保障戦略の方向性をめぐって、大きな枠組みで安全保障戦略を描く国家安保室と、個別の政策を遂行する外交部と国防部との間でズレが生じる場面があるのではないか。

日韓関係を巡っても、徴用工問題解決のために被害者団体の対応の矢面に立たされた外交部と、日韓関係改善を目指す国家安保室との間で明らかな温度差が見受けられた事例を思い起こす。最近行われたNATO外相会合では、日本から林芳正外相が参加したのに対して、韓国からは外交部第2次官が派遣された。これまでの韓国側の積極性がトーンダウンしたようにも見えなくもない。

いずれにしても、わが国もNATOとの関係強化を図っており、昨年6月のNATO会議以来、豪州・ニュージーランド、そして韓国を加えた4カ国(AP4:アジア太平洋パートナー)NATOとの関係は今後も深化していくものと考えられ、韓国の対NATO協力の動きを注視し、韓国の意図を的確に掴み、米国をはじめとする友好国との歩調を合わせる必要がある。316日の日韓首脳会談を契機に復活した日韓両国の外務防衛当局による日韓安保対話で確認すべきポイントであろう。