メディア掲載 国際交流 2023.04.18
電気新聞「グローバルアイ」2023年4月11日掲載
◆海外情報の正確な取得/AI翻訳発展に期待感
3月末、パリで開催されたAIに関する国際会議にネットを通じて参加した。AIと職場・R&D・生産性・技能との関係を議論する4日間の会議だ。パリ時間で午後開始のために睡魔に襲われてしまい、単なる聴衆として参加した。
コロナ禍が減衰する中、対面での国際会議が増え、意見交換が再び活発化している。当然の事ながら国際コミュニケーションには“言葉”が大切だ。特に政治経済や人文科学では言葉が大きく“モノ”をいう。
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語学に秀でた人でさえも発言には慎重さ・丁寧さに細心の注意を払う。例えば日本語が堪能なライシャワー元駐日大使や英語が堪能な帝国海軍の山本五十六提督は、公式の場では極めて優秀な通訳を伴い発言した。他方、優れた通訳を常時伴う事ができず、しかも語学に非力な筆者にとっては、陰で支えてくれるAI翻訳が不可欠となる。
もちろん、全てのコミュニケーションに言葉は必要ない。スポーツ選手は競技で、料理人は味と盛り付けでコミュニケートできる。昔の話だが、野茂英雄選手の完全試合達成時、米国にいた筆者はラジオ中継を車中で聴いていた。解説者が野茂選手のりりしい無口な態度をほめ「米国の若手には無駄口が多い。彼を見習うべき」と言った時には思わず笑ってしまった。そして今、大谷翔平選手は素晴らしいプレーと素敵な笑顔で人々を魅了している。
またアインシュタイン博士や小平邦彦先生のプリンストン高等研究所での英語に関する苦労話は有名だが本質的な問題ではない。
昔からAI翻訳に注目していたのは米国だ。今では常識となったステルス技術は、ソ連で無視されて国外に流出した技術論文を米国が初期的AIで翻訳した結果、開発されたものだ。
日本には海外情報に関し“少遅誤”という問題がある。すなわち翻訳される情報が少なく、たとえ翻訳されてもタイミングが遅れ、誤訳が多い点だ。この“少遅誤”解消という理由でAI翻訳を有望視している。
ただ“少遅誤”の中で“誤”だけは問題が残る。なぜならAIが利用するデータの中に現在の語義や価値観とは異なる文献があり、また意訳・誤訳も多い。以前米国アスペン研究所で、4種類の全編英訳『源氏物語』の中で「一体どれが正しいのか」と聞かれ、それぞれ特徴があるために戸惑った経験がある。
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歴史に“IF”は禁物だが、もし戦前・戦中の日本が巧みにAIを利用し情報を正確に把握していたら、と悔しい思いをしている。
ミッドウェー海戦時、ある米国将校は帝国海軍の暗号を解読した事を軽率にも新聞記者に語った。米軍上層部は軍法会議まで考えたが、日本に気付かれては大変と判断し、“沙汰やみ”となっている。もしも日本の在外公館が新聞を読み米側の暗号解読に気付いていたら、ただちに暗号は変更されたであろうし、80年前の4月、山本提督は最前線の視察時に米軍の待ち伏せに遭わなかったかもしれない。ナチ党の主導的思想家であるローゼンベルクの評論を多くの日本人が読んでいたら、妄信的“拝独”にはならなかったであろう。
以上のような理由から、AI翻訳が飛躍的に発展するよう開発者の努力に期待している。