ワーキングペーパー  グローバルエコノミー  2023.04.14

ワーキング・ペーパー(23-006E)Sources of Inequality and Business Cycles: Evidence from the US and Japan

本稿はワーキングペーパーです

経済理論

近年、マクロ経済学でも格差についての議論が盛んに行われている。格差は経済活動の結果として生じる面がある一方、格差そのものが経済政策の効果など様々な経路を通じてマクロの経済に影響を及ぼす可能性もある。既存の研究では、これまでの景気循環と格差の変動要因を同時に分析するものはほとんどなかった。また、経済活動と格差はトレードオフの関係にあると考えられることもあるが、実際にどのような関係になっているか必ずしも明らかではない。

そこで本稿では、2つの分析を行った。第一に、日米のデータを用いて、景気循環と格差の変動要因は何か、また景気循環と格差に共通した要因があるかを分析した。具体的には、資産市場にアクセスできる通常の家計と流動性制約に直面しており資産市場にアクセスできない家計の2種類の異質な家計がいるモデルを開発し、そのベイズ推計を行った。われわれは景気循環会計(Business Cycle Accounting)の手法を拡張することで経済の様々な歪みをモデルに導入している。第二に、推計したモデルの反実仮想実験を通じて、格差縮小を政府が行うと景気循環にどのような影響があるかを分析した。また、格差の指標として、消費の格差に焦点を当てた。

分析の結果は以下である。

まず、日米ともに景気循環に最も重要な要素は集計生産性の歪みであった。また格差変動に最も重要な要素は流動性制約に直面する家計特有の労働市場の歪みで、次いで通常の家計特有の労働市場の歪みであった。また、日本では景気循環と格差に共通して重要な影響を及ぼす要素は見当たらないものの、アメリカでは通常の家計特有の労働市場の歪みが景気循環と格差の両方の変動に重要な影響を及ぼしていることがわかった。

次に格差を縮小する政策を政府が行う場合、景気循環にどのような影響があるか、2種類の分析を行った。まず、格差の主要な変動要因である家計別の労働市場の歪みを取り除く政策を分析した。この場合、日本では景気変動が小さくなるのに対し、アメリカではむしろ景気変動が大きくなってしまうことが明らかになった。次に、政府が家計間の再分配によって格差を縮小させる場合も分析した。格差の変動を抑える再分配政策は、アメリカでは景気変動を小さくするのに対し、日本では景気変動が大きくなってしまうことがわかった。また、格差の水準そのものを現在の水準から是正する政策は、日米ともに景気変動を大きくしてしまう可能性があることがわかった。

これらの結果は、格差縮小政策の景気循環に対する効果は、どのような手段によるのかによっても、どの国に対して行うのかによっても異なること、また格差と経済変動が両立するものなのかトレードオフにあるかも場合によることを意味しており、景気循環と格差の関係の複雑性を示すものといえる。

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ワーキング・ペーパー(23-006E)Sources of Inequality and Business Cycles: Evidence from the US and Japan