<主なポイント>
〇昨年11月の米中首脳会談後に米中関係は一旦若干改善の兆しが見られていたが、本年2月以降、気球問題および中国のロシアに対する武器供与疑惑を背景に悪化し、過去最悪と言われるほど深刻な状況にある。
〇現在のワシントンDCの空気はイデオロギーと反中感情に支配されており、中国には「邪悪」、「盗人」などのレッテルを貼って批判しなければならない。これは自由な議論に対する言論弾圧であり、マッカーシズムと同じであるとの指摘がある。
〇気球問題以上に問題視されている、中国による対ロシア武器供与疑惑については、現時点ではまだ供与していないが、将来供与する可能性は否定できないとの見方で全ての米国の中国・国際政治専門家の意見が一致していた。
〇ロシア・ウクライナ戦争への和平提案、イラン・サウジ国交回復の仲介など、中国の最近の積極的な外交展開は、インド太平洋、すなわち中国包囲網の形成に集中している米国の関心を他地域に分散させることが目的であると見られている。
〇気球問題、対ロシア武器供与疑惑、台湾武力統一等に関して、冷静かつ客観的な事実の検証を行わず、米国内で共有されている疑念に基づいて外交方針が決定される傾向が見られる。こうした状況は、イラクに大量破壊兵器が存在するとの誤った判断に基づいてイラク戦争の開戦を決断した時の米国の状況に似ていると指摘されている。
〇昨年8月のペロシ下院議長の台湾訪問後、台湾住民の間で、米国は中国を挑発するために台湾を利用しているだけではないかとの不信感が広がった。台湾住民の多くは米国のサポートを求めているが、中国に対する挑発は望んでいない。台湾住民の多数派は中国からの独立ではなく現状維持を望んでいる。
〇蔡英文政権はそうした台湾住民の対米不信の広がりを踏まえて、米国政府に対してマッカーシー下院議長の訪台を当面見合わせるよう要望し、その訪台が見送られた。
〇EU主要国首脳等は中国に対してデカップリングは行わないと明言している。EU委員会のフォン・デア・ライエン委員長、仏マクロン大統領は、リスクを抑制しながら中国との関係を継続する姿勢として「デリスキング」という表現を用いている。
〇EUの対中姿勢は依然米国とは異なるが、3月20日に習近平主席がモスクワを訪問し、ロシアとの緊密関係を強調したため、対中批判が強まっている。
〇EU中国包括投資協定の協議再開に対して中国側は意欲を示しているが、EUの専門家は当面協議再開は困難であるとの見方で一致している。