メディア掲載  エネルギー・環境  2023.04.10

地球温暖化は心配ない

『文藝春秋』2023年2月号「目覚めよ! 日本 101の提言」に記載

エネルギー・環境

ロシアのウクライナ侵攻は、G7と露中の新冷戦の本格的な始まりを告げるものだった。過去30年間、「冷戦は終わった。地球規模の協力で温暖化が解決される」という物語が先進国を中心に共有されてきた。だが現実には露中とG7の「新冷戦」が始まった。その緒戦のウクライナ戦争で明らかになったのは、脱炭素に傾倒した欧州のエネルギー政策が完全な失敗だったことだ。再生可能エネルギーに幻想を抱き、自らの石炭、石油、天然ガス産業を抑圧したことで、ロシアのエネルギーに依存することに。経済制裁などたかが知れていると読んだロシアは開戦し、慌てた欧州は世界の化石燃料を買い漁った。そのせいで、世界はエネルギー危機に襲われ、世界中の国が化石燃料の増産に舵を切った。脱炭素はもはやお題目だけになっている。

特に、中国は安いエネルギーで勝負してくる。発電は安価な石炭火力が主力だが、今後数年で新設される設備容量は270ギガワットに上るとされる。日本全ての石炭火力の5倍以上だ。さらに、2030年には米国を抜いて世界一の原発大国となろうとしている。

世界諸国のエネルギー政策は大転換を迎えているにも関わらず、「脱炭素」偏重の日本の政策は変わっていない。日本は相変わらず再エネに傾斜し、コストは高くなる一方だ。

このままでは防衛費を上回る莫大な費用が無駄になろうとしている。岸田首相肝いりのGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議(昨年1026日)で政府は「官民合わせて10年間で150兆円をグリーン技術に投資し、脱炭素と経済成長を両立させる」とした。いま政府は20兆円の「GX経済移行債」を原資にグリーン技術に投資することに加え、130兆円の民間投資を「規制と支援を一体として促進する」としている。再エネだけで31兆円に上ると試算されている。民間がどの技術に投資するか、まるで社会主義のように政府が決めるという訳だ。

じつは政府は民主党政権の時からグリーン成長を重視してきた。当時の目玉は太陽光発電の大量導入だった。だが結果として、2012年から再生可能エネルギー発電促進賦課金制度がスタートし、いま年間約3兆円が電気料金に上乗せされる形で国民負担となっている。これでは経済成長どころではない。

いまリストアップされている技術はどうか。再エネを最優先し、そのための送電線や蓄電池の導入、そして水素の利用等、となっている。だが万事順調に技術開発が進んだとしても、大幅に高コストになる。政府はこれら新規技術の既存技術との価格差の補填までするという。150兆円の投資はそのまま国民負担になり、日本はますます高コスト体質になる。光熱費はどこまで上がるのか。経済成長に資するはずが無い。

政府は「2050CO2ゼロ」という国連パリ協定の下で諸国が掲げた目標の達成を前提に政策を立案している。だから「どんな高価な技術でもCO2さえゼロならばよい」と奇妙な論法になる。だが、高価な技術など実際は誰も使わない。現実には世界中で化石燃料を使っている。これが僅か27年後の2050年までにゼロになることは、技術的にも政治的にもありえない。

安価で安定の原子力発電を

日本が新冷戦に勝ち抜くための条件の一つはエネルギー政策の大転換だ。そのためには、温暖化のリスクも合理的に考えるべきだ。

真っ先に台風による災害の激甚化のリスクが言われるが、そのようなことは起きていないことは統計で容易に確認できる。数値モデルによる不吉な予測は不確かだ。そのモデルを信じても温暖化は1兆トンのCO2排出あたりで0.5度にすぎない。すると年間排出量10億トンの日本のCO2では、10年分でも気温は1000分の5度しか上がらない。世界のCO2排出をゼロにする必要もない。いま人類が排出するCO2の半分は、陸地や海洋が自然に吸収している。従って、CO2排出を半減すれば濃度の増加は止まる。これで地球温暖化を心配する必要は無くなる。

ならば、原子力発電を普及させ、安全性や経済性を高めた革新型原子炉や核融合発電を順次実現することで十分間に合う。莫大なコストを掛ける必要は無い。中国は、製造業こそ国の経済と軍事の根幹だと認識し「中国製造2025」計画を立て、あらゆる政府支援をしている。日本こそ、化石燃料も十分に活用し、安価で安定したエネルギー供給を実現し、強い製造業を実現すべきだ。