メディア掲載  グローバルエコノミー  2023.03.29

2015年に中国共産党は「法定の年金支給開始年齢の引き上げ」を断念した

Le Mondeに掲載(2023年3月10日)


この記事はアジア経済に関する月1回のコラムシリーズの1本として、2023年3月10日付けの仏ル・モンド紙に掲載されたものである。原文は以下のURLからアクセスできる:(翻訳:村松恭平) https://www.lemonde.fr/idees/article/2023/03/10/2015-le-parti-communiste-chinois-renonce-a-reculer-l-age-legal-du-depart-a-la-retraite_6164881_3232.html

中国

セバスチャン・ルシュヴァリエはこのコラムで、8年前に中国政府が開始した年金システム改革の紆余曲折について記述する。


中国の年金システムは、労働者のカテゴリーと居住地に応じて大きく分かれている。これは段階的に構築された歴史の結果だ。急速に進行する人口高齢化、そして深刻な不平等が明るみに出て国民の不満を増大させた経済減速が理由で、この区別が問題となった。

それゆえ中国政府は、2015年に年金システムの形式上の統合を目指す改革を開始した。だがこの改革は、労働市場における不平等を退職時に再生産するというシステムの構造的特徴のために、様々なカテゴリーの間の格差を縮めなかった(Huan Wang and Jianyuan Huang, "How Can China's Recent Pension Reform Reduce Pension Inequality?", Journal of Aging & Social Policy, 2021)。

2015年の改革の出発点は、法定の年金支給開始年齢を引き上げるという中国共産党の提案だった。しかし国民の大きな反対(複数の調査によると世論の70%以上が反対した)に遭い、政府は方針を変えることになった。

不平等の新たな源

中国の年金システムは実際、限界に達している。簡潔に説明すると、非常に乏しい年金額(2015年以前には毎月10ユーロほど)と引き換えに自発性に基づいて保険料を支払う、全国民(しかし農村部と都市部の間で区別されていた)のための積立型の基本制度が存在していた。

それに加え、都市に住む民間企業のサラリーマンは加入が義務の制度もあった。その資金源は企業とサラリーマンで、年金レベルは過去の収入に応じてスライドしていた。もう一つ、公務員のみにかなり高額な年金を保証していた賦課型の制度も存在し、その資金は保険料ではなく国の一般予算で賄われていた。

2015年の改革の核は、公務員の年金システムを部分的な積立型のシステムに変え、二つの異なるシステムを形式上一つにすることだった。だが、公務員とそのほかの労働者の間には事実上の不平等が残っていた。

年金システムへの加入が正式には義務であるなか、公務員でない労働者は特に雇用が不安定であるために70%ほどしか加入していない。さらに、公務員および一部の業種(金融、運輸など)の企業で働くサラリーマンを対象にした追加的な年金の導入が不平等の新たな源を生み出した。

年金レベルを現役時の収入から切り離す

最後に、年金レベル自体がとても不平等だ。たとえば公務員の年金レベルは基本給の約70%だが、民間企業のサラリーマンは40%強であり、年金基本制度ではせいぜい10%強にすぎない。

本当の平等を実現するだけでなく大規模な社会運動を生じさせないためにこの二人の研究者が勧めているのは、国籍のみに基づいて年金受給者全員にまっとうな額の年金を保証することと、最も貧しい労働者の年金レベルを引き上げるために、そのレベルを現役時の収入から切り離すことだ。

もちろん中国とフランスの状況はまったく異なっているが、中国政府が最初の改革への反対とさらなる平等を求める声に耳を傾けることができたのは興味深い事実だ。不平等が職業的地位と経歴に深く根差している時に年金システムの規定を変更することはあまり有効ではなく、国民になかなか受け入れられない。

もしその目的が本当に年金システムの存続であるなら、財政的な持続性の問題とともに社会的・政治的な持続性の問題も考慮に入れなければならない。