相次ぐ電気代の値上げが話題になっている。日本全体の1か月の電力コストも、昨年12月に過去最高を更新して月額2.3兆円に達した。これは慶応大学野村研究室の推計によるもので、企業および家計が支払った電気料金(税金をプラスし、補助金はマイナスしたもの)の合計だ。
出典:https://www.ruec.world/Japan.html
この価格高騰について、野村教授にお話を伺った。
Q(杉山):電力価格が高騰を続ける理由は何ですか?
A(野村):月次データの上図でみると2021年1月が1.4兆円ですので、2022年12月の2.3兆円まで、このほぼ2年間に月額9000億円もの電力コスト負担が増大しています。その要因は、天然ガスと石炭の価格高騰による影響がそれぞれ4000億ほど、再エネの賦課金の増加による影響が1000億ほどといったところでしょうか。
Q(杉山):原子力の稼働停止による影響はどうですか?
A(野村):この2年間に、再稼働による緩和効果はあまり大きくないですので、もし再稼働が進んでいたならばという前提と思いますが、新規制基準の審査中のものが稼働してくれば、先の負担増(月9000億円)の半分近くが抑制される可能性があると思います。政府は1月使用分から(8月使用分まで)は電気・ガス代支援に対する補助金として3兆円捻出することにしていますが、再稼働を進めることは、それを上回る効果がありそうです。もちろん補助金の財源も要らなくなります。
Q(杉山):補助金によって、今年の電力コスト負担は縮小するでしょうか。どのような展望をお持ちですか。
A(野村):2023年3月期第2四半期決算では多くの電力会社が巨額の赤字を出したように、燃料コスト高騰による価格転嫁はまだ十分ではないと思われますし、LNGなど長期契約により高騰が抑制されてきた輸入価格の見直しも進むと思われますので、電力のコスト負担は補助金によっていくらか軽減されたとしても、なお拡大するかもしれないと見ています。
引き続き注視しながらも、日本は対症療法ではなく、中長期的な価格抑制を目指すべきと思います。この2年間に経験したように化石燃料価格の変動は大きいですが、歴史を見ても、そうした高騰が中長期的に継続したことはありません。価格高騰自体が世界での供給を増加させるからです。
それが「いつ」かはわかりませんが、価格が低下する時期もやがて来ますので、今の石炭価格が高いからといって、拙速な再エネ拡大に執着するのは望ましくありません。再エネ賦課金によって高い電力価格が固定化されてしまうからです。中長期での電源ミックスのバランスを求める重要性はこれまでと変わらないと思います。
昨年の欧州での価格高騰は日本を大きく上回るものでした。エネルギーミックスを探求してきた日本の政策と電気事業者の努力が評価されるものと捉えています。