メディア掲載  グローバルエコノミー  2023.02.27

日本では「所得格差のレベルがOECD平均よりも大きいのに、それについての認識はより低い」

Le Mondeに掲載(2023年2月3日)


この記事はアジア経済に関する月1回のコラムシリーズの1本として、2023年2月3日付けの仏ル・モンド紙に掲載されたものである。原文は以下のURLからアクセスできる:(翻訳:村松恭平) https://www.lemonde.fr/idees/article/2023/02/03/au-japon-alors-que-le-niveau-des-inegalites-de-revenus-y-est-plus-eleve-que-la-moyenne-de-l-ocde-leur-perception-y-est-plus-faible_6160342_3232.html

機会平等は若者の間で際立って損なわれたものの、日本人がそれを強く信じていることから、再配分の要求が日本では他国よりもなぜ小さいのかを説明できる。セバスチャン・ルシュヴァリエが本コラムで指摘するのはそのことだ。


経済協力開発機構(OECD)諸国では所得格差が著しく広がり、社会的流動性は30年前から大きく鈍化した。

こうした状況は、大きな社会的不満および国家機関への信頼低下の原因となっている。この信頼低下は、当該問題について同じ結論を示す諸研究によって測られた統計的実態と、それについての市民の認識の間の恒常的な隔たりのせいで深刻化している。

この隔たりによって、たとえ政策が格差縮小に貢献するとしても、その政策に対する支持を政府が得ることの難しさの大部分を説明できる。したがって、国民の大半から支持される政策を構想・実施するために、実際の格差についての認識が再分配の要求にどう影響を及ぼすかを理解することは非常に重要だ。

「最も重要なのは経済成長」

日本のケースは特に興味深い。というのも矛盾があるからだ。日本では所得格差の実際のレベルがOECD平均よりも大きいのに、それについての認識はより低い。それは主に、機会平等は若者の間で際立って損なわれたものの、それが強く信じられているからだ。日本では再分配の要求が他国より小さい理由をこのことから説明できる。

OECDが労働政策研究・研修機構(JILPT)と共同で2022年12月8日に東京で開催したラウンドテーブル・ディスカッション(« Does Inequality Matter ? How People Perceive Economic Disparities and Social Mobility in Japan »)で、経済財政諮問会議の一員である中空麻奈氏(BNPパリバ・ジャパン株式会社)は、経済の停滞から30年が経った今でも日本のエリートの間で顕著なビジョンを提示した。すなわち、最も重要なのは経済成長であり、格差の原因は経済成長の不足と機会の不足でしかないといったものだ。

他方、若者支援のためのNGOである日本若者協議会の代表理事を務める室橋祐貴氏は、根本的に異なる解釈をする。すなわち、再分配の要求が小さいのは主として日本の若者——そこには最も貧困に苦しむ若者も見られる——が社会変革を諦めたからだという。

この根深い悲観論は、日本で非常に流行している「親ガチャ」という表現に見られる。この言葉は、若者の運命は実のところ自分の親とその経済力——トップクラスの大学に入るには私立の学校の学費を払えなければならない——に完全に左右されることを意味する。

より「持続可能な」資本主義

JILPT理事長で、労働経済学を専門とする樋口美雄・慶應大学名誉教授は、本当の機会平等を促進することを条件としながら、格差と闘うには人的資本への投資が重要だと強調した。より累進的な税制の導入が解決策になるかもしれない。競争について言えば、その重要性を否定できないものの、おそらくは量的な経済成長よりもウェルビーイング(心身と社会的な健康)とサービスの質の観点から目標を定めなければならない。

このラウンドテーブル・ディスカッションで日本人経営者の一人の代表者が主張したように、行き過ぎた自由主義的資本主義とは大きく異なる「持続可能な」資本主義を促進することが急務である。岸田文雄首相は2021年9月に、効率性と公平性を両立させるとする「新しい資本主義」の促進という公約を掲げて選出された。これは、かつて日本経済の強みとなっていた社会的結合への回帰の重要性を認めるものだ。

欧州も含め、この社会的結合を再認識すべき時だ。社会的公正は経済の敵ではない。まったくその逆だ。