メディア掲載 エネルギー・環境 2023.02.15
月刊エネルギーフォーラム 2022年12月号 「オピニオン」に掲載
EU(欧州連合)のエネルギー政策文書では、理想とするエネルギー利用の在り方に関する説明が充実している。例えば再生可能エネルギー導入策についても、単に「気候変動抑止」のための政策ではない。EUが再エネを推進するのは、「クリーン」で「透明性があり」、「フェア」で「デジタル」で「レジリエント」なインフラを、加盟国間の「連帯」を通じて構築することを目指しているからだ。今年からは「脱ロシア」も重要なキーワードとなった。関連文書の中では、エネルギー産業の技術や燃料に加えて、材料、働き手やスキル、利用者のライフスタイル、国際関係や開発支援など多岐にわたって、各キーワードが目指すエネルギー利用の姿が論じられている。
よく読むと、気候変動も「環境に悪いから対策せよ」という単純な話ではない。エネルギー利用の影響が、利用者とは別の世代や地域の人、さらに他の生物の生活環境まで及び得る点なども問題視されている。EUが取り組む「グリーン変革」には、「他者の被害の上に成り立つエネルギーシステムを使うべきではない」という意識もあるようだ。
翻って日本のエネルギー政策を見るに、3E+S(安定供給、経済効率性、環境適合+安全性)という端的な理念が掲げられているが、どのようなエネルギーシステムを目指しているのか、もう一歩踏み込んだビジョンは見えてこない。
それは、3E+Sを実際の文脈に当てはめ、さまざまなステークホルダーの声を踏まえながら、3E+Sに関する具体的課題や、3E+S間のバランスのとり方を議論するプロセスが不足してきたからではないか。例えば次のような問いを立てることで、エネルギー政策に資する知見を得られるかもしれない。
まず、「環境」とは何か。社会的に許容できない影響の条件や、再エネの急拡大とのトレードオフといった問題は十分に考えられてきたか。影響をより包括的に、正確に把握し、小さくするための研究開発は十分に行われてきたか。
「エネルギー自給」に関しては、燃料の自給率目標のみならず、エネルギー供給のライフサイクル全体で必要となる各種の資源を踏まえて、望ましい供給構造を考えるべきだろう。産油国を巡る地政学だけでなく、望ましい国際関係や、日本が果たし得る役割を考えていけば、エネルギー政策にとっても重要なインプリケーションがあるはずだ。
「経済効率性」についても、実績ベースの分析や試算のみならず、防災やレジリエンス、働き方改革、地方経済の再生といった課題との中長期的な相互作用を検討することで、新たな方向性や戦略を見出だせるかもしれない。
上述のような問題は非常に難しいからこそ、危機的状況に陥る前に、幅広くヒアリングを行い、議論を重ねていくべきだ。そして、そのような開かれた議論を通じて、3E+S以外にエネルギー政策において重要な理念はないか、という点も継続的に考えていくべきだろう。