メディア掲載  エネルギー・環境  2023.01.20

脱炭素でも実質〝大増税〟GDPの3%、防衛費よりも巨額 防衛&少子化対策に続き…成長など望めぬ日本経済

夕刊フジ(2022年1月13日)に掲載

エネルギー・環境

岸田文雄政権は昨年末、「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」を開き、今後10年間の基本方針を取りまとめた。世界的なエネルギー危機のなか、東日本大震災以降、停滞していた原発について、「ベースロード(基幹)電源」「将来にわたって持続的に活用」と明記し、建て替え(リプレース)や運転期間の延長などを盛り込む英断を下した。一方で、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロとする目標達成には、官民合わせて150兆円もの巨額投資が必要で、「防衛増税」をはるかに上回る「実質大増税」が不可欠だという。これで国民生活や日本経済は維持できるのか。エネルギー政策研究の第一人者であるキヤノングローバル戦略研究所の杉山大志研究主幹が緊急寄稿した。

GDP(国内総生産)の2%」という防衛費騒動の陰で、より巨額な「GDP3%」もの費用を伴う「脱炭素」の制度が、公開の場でほとんど議論されることなく、導入されようとしている。今月末に始まる通常国会で守るべき国民の利益は何か。

岸田首相肝いりで政府が進めてきた「GX実行会議」は昨年1222日、「GX実現に向けた基本方針」をまとめ、122日までの期間でパブリックコメントを募集している(https://www.meti.go.jp/press/2022/12/20221223011/20221223011.html)。

GXとは「脱炭素」のことだ。

政府は昨年末のわずか3カ月ぐらいの短期間に、官邸主導のGX実行会議でこの案をまとめた。しかし、審議会などの公開の場での議論はほとんどなかった。

同案では「安定・安価なエネルギー供給が最優先課題」とし、「原子力の最大限活用」を掲げた。ここまでは良い。

だが、政府は「10年間で150兆円を超えるGX投資」を実現し、脱炭素と経済成長を両立する、としている。そして、この投資を「規制・制度的措置」と政府の「投資促進策」で実現するとしている。

これは年間15兆円だから、実にGDP3%である。防衛費よりも巨額の費用の話になっている。

そして、中身を見ると「再生可能エネルギーを大量導入する」(約31兆円~)、「水素・アンモニアを作り利用する等」(約10兆円~)、となっている。

これは既存技術に比べて大幅に高コストだ。政府はこれを丸抱えで進める。研究開発、社会実装を補助し、既存技術との価格差の補塡(ほてん)までする。

これでは日本経済も高コストになり成長など望めない。

政府が「脱炭素と経済の両立」と言い始めたのは2009年の民主党政権にさかのぼる。当時の目玉は、太陽光発電の大量導入だった。だが、その帰結として、いま年間3兆円の再エネ賦課金の国民負担が発生し、「経済の重荷」になっている。今の政府案は、これを何倍にもして再現するものに見える。

政府はまた投資に充てるため20兆円の「GX経済移行債」を発行する。これを新設の「GX経済移行推進機構」が運営する「カーボンプライシング」制度で償還するとしている。

カーボンプライシングとは、エネルギーへの賦課金とCO2排出量取引制度で、実質的にはエネルギーへの累積20兆円の増税だ。

だが、これは論理的におかしい。政府は新しい制度が経済成長に資すると言うが、ならば一般財源の増収があるはずで、それで償還できるはずだ。これは建設国債と全く同じ話である。新たな償還財源など要らないはずだ。

読者諸賢はパブコメを

そして累積20兆円もの規模で特別会計のごときものを作り、その運営のための外郭団体である「機構」を設立するというのは問題だ。行政の本能として、この機構を維持・拡大しようとするようになる恐れがある。そのためにカーボンプライシングが強化されるならば、これも「経済の足かせ」になる。

排出量取引は欧州が先行したが、失敗の連続だった。排出権割当ての制度変更が延々と続き、不安定で経済は混乱した。行政は肥大化した。なぜ、日本が追随するのか。

一連の新しい制度を通じて、政府はエネルギーの生産・消費に関連する投資に、ことごとく関与するようだ。だが、何に投資するか政府が決めるというのは計画経済で、経済成長は望めない。

以上のように、現行の政府案には、巨額の国民の財産が関わっており、重大な問題が山積している。まずは読者諸賢に置かれてもパブコメを出してほしい。そして、月末に始まる通常国会は、公開の場で大いに議論し、制度の性急な導入を阻止すべきだ。