政府の経済対策が公表された(内閣府ホームページ)
図:内閣府ホームページより
特に重点を置いたエネルギー価格対策については「総額6兆円、平均的な家庭で来年前半に総額4万5000円の支援となる」(日本商工会議所)としている。
日本の人口は1億2570万人、世帯数は約5800万だから、世帯あたり4万5000円は総額で約2.6兆円になる。家庭だけでなく企業への補助金も含めると総額6兆円になるということのようだ。
これはどの程度の規模感なのか? 政府はエネルギーコストの総額を公表していない(何故だ?)ので分からないが、慶応大学野村教授が「エネルギーコストモニタリング」として毎月情報を更新しているので、それを見てみよう。
図1:日本のエネルギーコスト 慶応大学野村教授「エネルギーコストモニタリング」より
なおここで言うエネルギーコストとは、家庭、企業などが毎月支払う光熱費を積算したものに当たる。間接税、賦課金、補助金も算入されている。各種統計からボトムアップに求めている。図1について更に詳しい説明はエネルギーフォーラム記事を参照されたい。
さてこの推計によると、今年のエネルギーコストは前年に比べて13.5兆円増加の見込み、とのことだ。政府経済対策はこれを6兆円軽減するものだから、だいたい、「この1年に起きたエネルギーコスト増分の半額を軽減する」ものだ、ということになる(正確には6÷13.5=44%)。
政府経済対策によるエネルギーコスト低減は、過去1年の日本のエネルギーコストの増分をほぼ半減させることが分かった。
ではさて、このような措置は本当に必要だろうか? 図1を見ると確かに2015年に比べて今のエネルギーコストは高くなっている。けれども、このナマの金額だけ見ていても、果たして日本経済への負担が大きくなっているかは、にわかには判断できない。これには3つ理由がある。
以上の3つを検討して、「GDPあたりのエネルギーコスト」を指標化したものが図2である。これは「実質単位エネルギーコスト」であり、英語でReal Unit Energy Cost/(RUEC)と呼ぶ。
ここで「実質」というのはインフレ調整をしているという意味である。「単位」というのはGDPあたりのエネルギーコストという意味であるが、更にここではエネルギーの質(構成)の変化も考慮されている。
図2:日本の名目GDPあたりのエネルギーコストの指標。2015年を100として指標化してある。
慶応大学野村教授「エネルギーコストモニタリング」より
これを見ると、実質単位エネルギーコストは、2015年に比べても、2021年に比べても、3割程度の上昇になっている(なおこの図だけからは分からないが、この実質単位エネルギーコストの水準は、二度のオイルショック後の1980年代初めに記録された戦後日本経済のピークに近いものだ)。
やはり2022年のエネルギーコスト高騰は日本経済にとって重荷になっていることが分かった。ということで、今回の政府の経済対策が、激変緩和措置としての意味はあることは確認できた。
もっとも、この政策としての良し悪しはもちろん別途、議論しなければならない。
政治的な理由から今回のような措置を採る必要があったのかもしれないが、これが赤字国債の増発を招き財政を悪化させていることは間違いない。加えて、世界のエネルギー価格高騰が今後数年は続くであろうから、この措置からの出口戦略は政治的に難しいこととなる。
何よりも、日本は根本的にエネルギーコストが下げる必要がある。このためには少なくとも以下を検討せねばならない。
今回の経済対策を、すっかり高コストで不安定になってしまった日本のエネルギー供給に対する根本的な治療の契機とすべきである。ただの対症療法で解熱剤になってしまうのでは全く意味がない。