10月21日に総務省が発表した消費者物価統計によると、9月の消費者物価指数上昇率は前年同月比3.0%となり、4月以降、6ヵ月連続で2%を超えるインフレが続いている。また日本銀行の国内企業物価指数は、1月以降毎月、前年同月比9%以上の上昇となっている。
このような状況うけて、岸田首相は10月29日の記者会見で、「物価高克服、経済再生実現のための総合経済対策」について説明した。具体的な施策としては、電気等のエネルギー関連で2023年前半に1世帯当たり4万5千円相当の支援を財政から行い、それによって消費者物価指数を1.2%以上引き下げると述べた。
物価上昇は家計に対して直接的にマイナスの影響を与えるため、政府のこうした対応は政治的な判断としては理解できる。しかし、過去10年間、自民党・公明党連立政権が行ってきた政策を考えると、それらの政策との関係についての説明が求められる。
2013年1月以降、いわゆる「アベノミクス」として、2%程度のインフレを目標に掲げて、政府・日銀は、文字通り政策を総動員してインフレ率の引き上げに努めてきた。この立場からすれば、上記のようなインフレ率の推移は、まさに年来の目標が達成された、少なくともその限りでは望ましい状態のはずである。そのこととの関係を議論することなく、物価高はむしろ避けるべき事態であるとしてそれへの対策を打ち出し、そのことをもっぱら強調するのは適切ではないであろう。
この点で、「異次元緩和」の継続を主張する日銀の黒田総裁の姿勢には一貫性がある。しかし日銀の対応には別の側面で問題が指摘できる。中央銀行がインフレ目標を掲げることの意味は、中央銀行が金融政策の運営の仕方にコミットする点にある。4月以降インフレ率が継続的に2%を超え、さらに3%に達したにもかかわらず金融緩和を続ける理由として、黒田総裁は、現在のインフレは主に資源価格の上昇によるもので、賃金上昇を伴っていない点を挙げている。このように別の要因を事後的に追加して当初の目標を事実上修正すれば、インフレ目標のコミットメンとしての意味が損なわれることになるであろう。