以前筆者は、中国製の太陽光パネルは製造時のCO2発生が多く、カリフォルニアでは製造時のCO2削減を取り返すのに9年もかかるという米国ブレークスルー研究所の試算を紹介した。
では日本はどうなのか、概算してみよう。
パネル製造時のCO2排出量を計算しよう。
まず、中国での製造時のCO2等の排出は、上記記事の付録を見ると、パネル1平方メートルあたり433KgCO2となっている。また1m2のパネルの電気出力は197.84Wpとなっている。
そうすると1WpあたりのCO2を計算すると
433KgCO2 / 197.84KgCO2/Wp = 2.19KgCO2/Wp
そうすると1MWp製造時のCO2排出量は
2.19GgCO2=2.19KtCO2
となって、1メガワット製造時のCO2排出量は2190トンとなる。
つぎに1メガワットの太陽光発電で削減できるCO2の量を計算しよう。
まず発電される電力の量から求める。政府資料によると、住宅用の太陽光発電の設備利用率は13.8%となっているので、1年間を8760時間として、
1MW×8760h×13.8%=1.20GWh
これだけの電力を作るために日本の発電所が排出しているCO2は、日本の現在の電力の排出係数は0.441kgCO2/kWhであるので、
1.20GWh×0.441kgCO2/kWh=0.531Gg=531t
つまり1メガワットの太陽光発電で削減できるCO2の量は年間531トンである。
そうすると、製造時のCO2排出量は確かに多いが、住宅用の太陽光発電であれば、だいたい4年(2190/531=4.1 注1)で取り返せることになる。5年目以降はCO2の削減になる訳だ。
さてこんどはメガソーラーについて計算しよう。
まず1メガワット製造時のCO2排出量であるが、これは「過積載」をしているために大きくなる。
政府資料を参考に過積載率を40%とすると、CO2排出量も40%増えて、2.19×1.4=3.07だから
1メガワット製造時のCO2排出量は3070トンとなる。
メガソーラーは過積載をしていることで設備利用率は住宅用よりも高くなり、政府資料によると17.2%となっている。
削減できる年間のCO2排出量も住宅用より高くなり
531*17.2/13.8=662
つまり1メガワットのメガソーラーで削減できるCO2の量は年間662トンである。
そうすると、製造時のCO2排出量は確かに多いが、メガソーラーの場合も、5年弱(3070/662=4.6)で取り返せることになる。6年目以降はCO2の削減になる訳だ。
メガソーラーは森林を破壊することがある。高めに見て、最大でどのぐらいのCO2排出になるのか計算しよう。
まずメガソーラーは、1メガワットあたり2ヘクタールの面積を使うとする。
林野庁が成熟した杉林についての数字を出しているので、それを用いよう。
杉林は1ヘクタールあたり302トンのCO2を蓄えているから、もし2ヘクタールの森林を切り開いてメガソーラーを建設するとしたら、建設時に604トンのCO2が発生する。
また杉林は毎年8.8トンのCO2を固定する。これがメガソーラー開発によって失われるならば、毎年8.8トンのCO2が発生することと同等になる。
いずれも大きな数字ではあるが、メガソーラーで削減できるCO2の発生量が年間662トンであるので、メガソーラーがだいたい1年で取り返せる。
先ほどの製造時と合わせると、3070+604=3674なので、メガソーラー建設時のCO2排出量は3674トン、毎年のCO2削減量は662-8.8=653なのでメガソーラーによるCO2削減量は毎年653トン。3674/653=5.6(注2)なので、森林破壊によるCO2排出を最大限見積もっても、メガソーラーは、建設時のCO2排出を6年弱で取り返せることになる。7年目以降はCO2の削減になる訳だ。
さて以上では電力の排出係数として現時点の値である441kgCO2/kWhを用いてきた。だがこれは原子力と再生可能エネルギーの割合を増やすことで2030年には250kgCO2/kWhにするのが国の計画となっている。
そうすると太陽光発電によるCO2削減量も250/441=0.567倍になる。
建設時のCO2排出を取り返すのにかかる年数はその分長くなって
となる。
結論:建設時までのCO2排出量を事業ごとに計算すべきだ
このように、中国製のソーラーパネルを使用した場合(いまの世界のソーラーパネルのほとんどは中国製だ)、太陽光発電の建設時までのCO2排出量は大きく、太陽光発電によるCO2削減で取り返すためには住宅用で7年、メガソーラーでは10年もかかるという計算結果になった。
以上の計算は概算であり、詰めるべきところは沢山ある。だがはっきり言えることは、パネル製造や森林破壊などによって建設時までに発生するCO2排出量をきちんと予測し、明示すべきだ、ということだ。
その上で、事業の妥当性を検討すべきだ。
もちろん、政府の太陽光発電支援策についても、建設時のCO2排出量を考慮して、今一度見直すべきである。