メディア掲載  グローバルエコノミー  2022.11.17

中国は「一帯一路」不良債権化のリスクをどう乗り切るか

Foresightに掲載(2022年11月7日付)

国際金融 中国

途上国の過剰債務問題がくすぶり続けている。デフォルトに陥ったスリランカをはじめ、「一帯一路」の旗印のもとで積極的な対外投資を進めた中国の対外資産がダメージを受けることは避けられない。ただし、対外資産の急増は2016~2017年を境にピークアウトしており、この問題が中国経済の屋台骨を揺るがすと見るのは早計だ。


中国共産党はこのほど全国の党員代表を招集し、第20回全国代表大会(以下、党大会)を開催した(1016日~22日)。党大会初日には、習近平総書記が党指導部を代表して、これまでの党の活動実績を総括し、今後の運営目標などを提起する報告を行った。今大会は、習氏が総書記の任(15年)を2期務めた後ということもあって、報告では2012年の第18回党大会以降の10年間を振り返ることが多かった。

高度経済成長終焉後の「新時代」

習総書記は報告の中で、この10年間に生じた歴史的意義を有する出来事として、①共産党創立百周年を迎えたこと(2021年)、②中国の特色ある社会主義が新時代に入ったこと、③貧困からの脱却と小康社会(ややゆとりのある社会)の全面的建設という百年目標を達成したことを挙げ、党の功績として高く評価した。また、10年前の中国は、それまでの努力が大きな成果を挙げ、さらなる発展のための基礎固めができていた一方で、長い間に蓄積した問題と新たに生じた問題の解決が待たれる状況にあったと説明し、党指導部は情勢を推し量りながら困難に立ち向かってきたと強調した。習総書記が総括した党の実績評価をどう捉えるかはさておき、この10年間に中国が経済成長路線や対外経済運営方針などについて、大きな調整局面に立たされてきたことは確かである。

1970年代後半に党指導部と中国政府が経済の制度改革と対外開放政策に踏み切ってから四十余年の間に、同国経済は世界第2位のGDP(国内総生産)規模を有するまでに成長し、トップのアメリカとの差を縮めている(ドル建て名目GDPの中国対米国比率:19807%、200012%、201252%、202177%)。1人当たりGNI(国民所得)の増加には少し時間がかかったが、1980年に220ドルと低所得国の枠内にあった中国は、1998年に800ドルで低位中所得国に、2010年に4340ドルで高位中所得国となり、2012年の5910ドルを経て、2021年には11890ドルと高所得国入りが近い水準に達している(世界銀行が20227月に公表した高位中所得国と高所得国の境界線は13205ドル)。

しかし、2012年頃から経済成長速度の鈍化が明らかとなり、党指導部は、経済成長モデルを高度成長路線から安定成長路線へと移行させる道筋を模索し続けることになった。さらに2010年代後半には、過剰生産能力、過剰不動産在庫、過剰債務の問題が深刻であることが判明し、経済のソフトランディングを目指しながら、これら3つの過剰を解消していくという難題に直面した。

外貨準備の運用先としての「一帯一路」

この間、中国は対外経済面でも大きな変化を迎えていた。1990年代前半までの中国の対外経済政策の重点は、国内市場を開放し、外国の資本と技術を国内に導入することに置かれていたが、1990年代後半になると、「引進来(中へ呼び込む)」と「走出去(外へ出ていく)」を共に促す重要性が指摘され、対外直接投資が奨励され始めた。

その後、2001年の中国の世界貿易機関(WTO)加盟と前後して、海外から同国への直接投資や同国の輸出が増加し、外貨が一段と勢いを増して流入した。資本取引規制が厳しい中国では、流入した外貨は中国人民銀行(中央銀行。ただし、政府機関でもある)に吸い上げられ、外貨準備として積み上がった(中国の外貨準備残高:2000年末1689億ドル、2005年末8257億ドル)。

その結果、2005年時点で中国の対外資産残高(1.2兆ドル)は、世界第15位の規模に達したというのに、その7割近くを政府が保有する外貨準備が占めるという歪な形になってしまった。因みに、当時中国よりも対外資産残高が大きかった14カ国・地域の同年末外貨準備残高の対外資産残高全体に占める比率は、日本(20%)と香港(7%)を除き、3%台前半以下であった。また、同年末の人民銀行のバランスシートをみると、外貨資産が資産総額の6割を占め(同比率のピークは20143月末の83%)、市場関係者の間では金融政策運営に支障を来すことを懸念する声も聞かれていた。

こうした状況を受け、中国政府は民間部門による直接投資や貸出の形で、外貨を海外で運用することを志向し、「走出去」は重要な国家戦略に格上げされた。ただし、国の政策支援はさほど整っていなかった模様で、「(当時の)“走出去”は国家戦略としては未熟」であったと指摘されている(梶田、2017)。「走出去」戦略を補完し、さらに強化することを目指して提起されたのが「一帯一路」構想である。これは、2013年の習近平国家主席による「シルクロード経済ベルト」と「21世紀海上シルクロード」経済圏構想の提唱が起点と言われている。この構想も、当初は漠然としたイメージが先行したが、2013年末から2015年初にかけて、共産党や政府の公式目標に組み込まれ、国家発展改革委員会を事務局とする推進委員会が組成されるなど、企業の「走出去」を後押しする勢いが強まった。

「一帯一路」構想を資金的に支援するために、2014年、中国政府は外貨準備400億ドルを拠出し、シルクロード基金を立ち上げた。2017年には他の公的機関も加えて1000億元(約1.6兆円)の増資を実行し、基金全体の出資構成は、外貨準備65%、中国投資有限責任公司15%、国家開発銀行5%、中国輸出入銀行15%となった。

また、中国政府はアジア地域の膨大なインフラ建設の資金需要に応えることを主な目的に掲げ、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立を提案し、最大の出資者として2016年初の開業を主導した。AIIBは国際金融機関であり(創設時承認メンバー57カ国・地域、現在105カ国・地域)、中国の「一帯一路」構想と直接リンクしているわけではないが、中国政府は、「AIIBの目的は“一帯一路”建設と高度に合致している」と述べ、「(AIIBは)中国が外へ出て、過剰資本と産業能力を消化し、国内外の資源と市場を利用し、人民元の国際化を促進し、グローバルな市場に参加するための重要な手段である」と説明していた(人力資源・社会保障部ウェブサイト2015年5月11日掲載)。


この続きはForesightに会員登録をすることで読むことができます。