2012年11月の中国共産党第18回大会で選出された習近平政権は、その後10年にわたって、中国経済を高度成長路線から質の向上を伴う中高速度の成長路線へと、改革を通じて安定的に移行させる道を模索してきた。しかし、政権発足から間もない時期に打ち出した経済制度改革構想は、強い痛みを伴うことが予想されたため、慎重な遂行が求められ、また既得権益者の抵抗も大きく、所期の成果を上げるのは容易ではなかった。
一方で、中国は世界貿易機構(WTO)加盟後の高度成長を経て、2010年にはドル建てGDPで世界第2位に躍り出た後、トップの米国との差を急速に縮めている。この間、中国の貿易総額と外貨準備高は世界トップとなり、世界経済の成長率の25~30%程度は同国の成長が寄与するなど、存在感を強めている。また、中国の技術力の成長も目覚ましく、インターネットや人工知能(AI)などの面では米国のライバルと認識されている(Bergsten、2022)。
2010年代後半の中国経済は、過剰債務問題に足を取られながらも、実質GDP成長率は7%前後から5%台後半へと緩やかな減速に止まっていた。しかし、2020年初の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)蔓延を機に、国内外の様々な経済活動が混乱し、経済成長率も四半期ごとの振れが大きくなり、中国政府は対応に追われている(図表1)。なかでも不動産市場の低迷、地方政府の財政難、地方の中小銀行の経営破綻などの問題は、相互に関連し合っている要素もあり、今後の経済回復の展望を難しくしている。
2022年4月以降、中国政府は多方面に及ぶ経済刺激・支援策を打ち出し、経済の安定と回復を目指しているが、一連の政策は長い目でみた改革の方向と整合的だろうか。安定と効率性の追求のバランスが問われている。