東北電力・東新潟火力発電所は設備容量486万キロワットと大きい。火力発電所としては日本3位の大きさだ。東北電力1669万キロワットの約3割を占める。発電する電力量でもやはり東北電力の約3割を占める、まさに基幹電源である。
何度かの増設によってここまで増強された。中でも3号系列は国内初の事業用大容量コンバインドサイクル発電である。コンバインド(複合)とは、2回発電するという意味で、航空機のジェットエンジンに似たガスタービンで発電したのち、その約600度の排熱を利用したボイラーで蒸気を発生させ、蒸気タービンでも発電する。4号系列ではさらにその効率を高めた。
新潟の中心部から20キロメートル離れた場所にあり、1500ヘクタールある新潟東港工業地帯の要の存在だ。ここから電力を供給することで、新潟、そして東北地方の経済発展を支えてきた。
2011年に発生した東日本大震災のときには、東北地方の太平洋側の発電所は軒並み被災した(図1)。事故を起こした東京電力・福島第1原子力発電所だけではなく、多くの火力発電所も被災した。東北地方全体で大停電になった。
【図1】東日本大震災の被災状況。3月11日の大震災で新潟県以外の火力・原子力発電所は全て停止した。同年8月末になっても太平洋側では多くの発電所が停止したままだった。出所:経済産業省(https://www.bousai.go.jp/kaigirep/chousakai/tohokukyokun/9/pdf/sub2.pdf)
そのとき復旧の主力になったのは、東新潟火力であった。東北地方を横切る送電線を使って、東北地方全体へ電力が供給され、1週間以内に停電からほぼ復旧した。もしこのとき東新潟火力も同時に停止していれば、どれだけ余計に時間がかかったことであろうか。
東北電力の大規模な発電所は、太平洋岸のみならず、日本海岸にも広く分散して配置されている。このおかげで、太平洋岸の発電所が軒並み被災したにもかかわらず、日本海側から送電されて、太平洋側でもただちに電気が復旧したのだ。言わば「大規模広域分散型」であるエネルギー供給体制こそ、経済性と防災を両立するすぐれたシステムであった。
なおこのとき、天然ガスも後述する日本海エル・エヌ・ジー社のパイプラインによって新潟から仙台へと送られ、東北地方の復旧に一役買っていた。
東新潟火力がいま直面している大問題が世界的なLNG価格の高騰である。
温暖化ガス排出量を実質ゼロにする欧州のネット・ゼロ政策が失敗し、ガス供給のロシア依存が高まったところで、ロシアのプーチン大統領は欧州の足下を見てウクライナに侵攻した。欧州はロシアへの経済制裁として化石燃料の輸入を止めることを検討したが、あべこべに、ロシアにガス供給を止められつつある。このままでは産業は崩壊し冬には人々が凍えることになる。
慌てた欧州は世界中のLNGを買い漁り、世界のLNGスポット価格は暴騰した。欧州ではガスの卸売り価格は以前の10倍にまでなった。欧州は発電の主力がガス火力発電なので、卸売り電力価格も以前の10倍にまでなった。
日本でも、LNG輸入価格と電力価格はじわじわ上がっている。ただし欧州ほどひどい状態ではない(図2)。
【図2】世界のガス価格指標比較。日本平均LNG輸入価格はスポット価格(JKM)より低くなっている(注:EUA=EU排出権価格、米国HH=米国の天然ガス価格指標、TTF=オランダの天然ガス価格指標、JKM=東アジアの天然ガス価格指標)。出所:JOGMEC(https://oilgas-info.jogmec.go.jp/nglng/1007905/1009475.html)
これは電力会社のがんばりによるものだ。東新潟火力では、LNGの多くを長期契約によって、オーストラリア、マレーシア、米国、カタールなどから購入している。
長期契約では、LNGの量が決められ、価格には一定のルールが決められる。原油価格と連動するのが普通であり、いまもある程度高くなっているが、10倍になるということはない。
欧州は長期契約よりもスポット契約の方が安い時期が続き、長期契約が少なくなっていた。このため、スポット価格の暴騰をもろに受けて、電力価格も暴騰した。
日本では、安定供給を重視して長期契約を多く結んでいたので、それほど暴騰せずに済んできた(ただし日本でも近年はスポット契約も増えてきたので、それによる価格高騰は避けられないかもしれない)。
東新潟火力については今後も長期契約を中心にLNG調達を行うとのことで、世界的にLNGのスポット価格が最も暴騰する時期を何とかしのげそうだ。
電力不足が恒常化している日本だが、東北地方も例外ではない。
東北電力管内のこの冬の電力予備率は4%前後となっている。3%を切ると危険水準と言われるから、ギリギリの状態だ。東新潟火力のような大型の発電所が万全の状態で稼働しないと、たちまち停電の危機になってしまう。だからいま冬を迎えて整備に余念がない。
同発電所のLNGは隣接する日本海エル・エヌ・ジー社から供給されている。その9割を東新潟火力で使う。日本海エル・エヌ・ジー社の敷地内にはLNGタンクが並ぶ。合計33万トン分。1日8000トンのガスを供給するというから、満タンにすれば40日分の備蓄があることになる。
LNGは徐々に気化していくので長期の備蓄には向かない。そのためLNG輸送船で絶え間なく搬入することになる。2021年の搬入は46隻だったというから、平均すると毎週1隻程度だった。
冬の日本海は荒れることがある。長い防波堤で囲ってはあるものの、それを乗り越えて港湾内まで波が入ることもあり、そのようなときには船を岸壁につけてLNGを荷揚げすることができない。船は沖合で待機することになる。これまで、最長では6日間も時化(しけ)が続き、船をつけることができなかったとのこと。荒天が収まると、船が次々に港に入って、1日1隻ぐらいのペースで荷揚げする。
荒天が続く中でも安定して電気が供給できるよう、LNGの調達計画は万全を期さねばならない。
以上、東新潟火力による「ファインプレー」を見てきた。このベテラン選手、これからはどうなるか。
同発電所は東北地方の電力を担うベースロード電源として構想された。しかしいま、太陽光発電や風力発電などの変動性の電源が増えたために、その年間での設備利用率*1は大きく下がっている。
*1:設備利用率とは、どの程度の出力で稼働しているかを平均したもの。常に100%の出力で運転していれば設備利用率は100%となる。
東新潟火力の設備利用率は、かつては70%を超えていたが、いまでは45%程度である。ガスタービンを夜間には完全に停止して日中だけ運転するというDSS(Daily Start and Stop)運転も頻繁に行うようになった。近年になって、春・秋の低需要期に太陽光発電が高稼働となるため、日中だけ停止するDSS運転が増えてきたのだ。
せっかく世界最新鋭の効率の高い発電所を造ったのに、変動性電源があるがためにベースロードとして安定してフル出力で使用できず、このような中途半端な使い方をするのはどうにももったいない話である。
設備利用率が下がったため電力の売り上げは減って、採算性は低下している。古くからある1号機、2号機はコンバインドサイクルではなくボイラーでガスを燃焼し蒸気を発生させる従来型の方式であるが、コンバインドサイクル発電に比べるとやはり効率が低いので、採算性もよくない。ここ数年、日本全国で、採算性の悪化を理由に火力発電所の休廃止が続いてきたが、これが電力不足の主な原因の一つである。
地震も多く、冬の厳しい東北地方において電力を安定に供給し続けるためには、いまある火力発電所は維持した方がよさそうだ。発電量が少なくても設備維持ができるよう、火力発電の設備容量に対してきちんとした支払いがなされるような政策が必要だ。
[参考リンク]
YouTubeページ「杉山大志_キヤノングローバル戦略研究所」
https://www.youtube.com/channel/UCQTBDqu6j3u4GrPPl2HrS3A