メディア掲載  国際交流  2022.11.10

対中対話/世界を揺り動かす存在

電気新聞「グローバルアイ」2022年11月8日掲載

国際政治・外交

◆過去に学ぶ価値観の差/双方理解へ冷静議論を

先日、ある国際会議に関して事務局から連絡が入った。中国のゼロコロナ政策のため、多くの中国人研究者が参加できない。従ってオンライン開催となったとの報告であった。

大国としての中国の存在を無視できない現状では、研究論文や研究資金の点で中国の動きを無視できなくなっている。しかも新型コロナ危機の下、国際会議の開催日程・方法までもが、中国の方針に揺り動かされているのだ。中国に左右されるこの動きは当面続き、状況は一層深刻になるかも知れない。それは、北京で先月開催された共産党の全国代表大会で、習近平中央委員会総書記の演説を聞き、筆者は内外の友人たちと「世界の将来が中国に揺り動かされる」事を確認したためである。

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これに関し米国政治学会(APSA)会長を務めた故ルシアン・パイMIT教授は1985年の著書の中で優れた予見を述べた―将来の中国が改革開放路線を継続するのか、それとも中国の伝統的な保守主義に基づく路線に回帰するのか。中国の選択によって世界情勢は大きく変化する、と。

教授の慧眼に驚いている筆者だが、我々は習政権下の中国と政治経済社会問題を直接的に議論しなくてはならない状況に陥っている。そして世界が平和と繁栄を享受し続けるには米中両国、そして日本が、冷静に対話を忍耐強く続け、武力対立を避ける努力をしなくてはならないのだ。

知中派のパイ教授は、対中対話に関し、米中間の価値観の違いから生じる問題も指摘した。例えば、天安門事件直後にブッシュ政権はスコウクロフト大統領補佐官とイーグルバーガー国務副長官を北京に秘密裏に派遣し、関係修復に当たらせた。しかし、同教授によればフェイス・トゥ・フェイスの密談に関して米中間の文化的価値観の差から、双方にとり望ましい成果は得られなかった。筆者はスコウクロフト氏がお亡くなりになる前に米国アスペン研究所でお会いした際に、その時の事をお聞きしておけば良かったと今になって後悔している。

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さて科学技術強国を目指す中国に対し、日本を含む西側諸国の対応策を議論するため、数多くのオンライン会議が開催されている。これに関しても別次元の難しさが生じている―それは時差だ。米国西海岸の午前9時は東海岸の正午、ベルリンの午後5時だ。そして東京は午前1時となる。かくして筆者は睡魔と戦いながらの参加となる。

簡単な雑談なら問題ないが、複雑な政治経済や技術の話だと、相手の話を聞き逃すだけで的確な発言ができなくなる。かくして中国が絡む問題では、国際政治経済の複雑さに加え、文化的価値観と時差の問題が浮かび上がってくる。

上述した障害があったとしても中国との対話を絶やせばウクライナのような悲劇が生じかねない。後顧の憂いを絶つため、双方の価値観を理解し、また友好国との意思疎通も欠かさず対話を続ける必要がある。

歴史は遡るが敗戦直後の日本で東條英機首相は、対中対話を反省し、「共に虚心坦懐に東亜安定の礎石確立の為直接交渉により和平の途を勇敢に講せざるべからざりき」と獄中で榊原陸軍大佐に語った。我々は歴史の教訓を学び直す時を迎えているのだ。