メディア掲載  財政・社会保障制度  2022.10.13

人生100年時代の働き方と個人事業税

月刊『税』(株式会社ぎょうせい)2022年10月号に掲載

税・社会保障

デジタル化や働き方改革の進展により新しいビジネスが生まれ、起業する人や副業・兼業を行う人が増えており、事業や個人事業主の定義に変化がみられる。

コロナ禍となり、家で過ごす時間が増え、ウーバーイーツなどのデリバリーの利用やYouTube、インスタグラム、TikTokなどを見る時間も増えたことから、ウーバーイーツの宅配者やユーチューバー、インスタグラマー、ティックトッカーなどが増え、このような新しい仕事に従事する人たちの課税についても検討する必要がでてきた。ウーバーイーツの宅配者は、インターネットを使って単発で仕事を受ける「ギグワーカー」と呼ばれる。振り返れば、1990年代から始まったインターネット上でモノやサービスを売買する事業が、eコマースや電子商取引と呼ばれるようになり、ビジネスの仕方が変わっていった。経済産業省は、1998年度から毎年、電子商取引実態調査を行っているが、個人間の電子商取引が急速に拡大していることをふまえ、2016年度から個人間の電子商取引市場規模について推計を実施するようになった。2021年度は22121億円にのぼり、右肩上がりを続けている。

また、2016年に刊行された『LIFE SHIFT100年時代の人生戦略』を契機に、日本では人生100年時代の生き方が模索されるようになった。これまでの人生設計は、20年学び、40年働き、20年休むという教育・仕事・老後が一般的であったが、100年時代では学び直しや転職、長期休暇の取得など人生の選択肢が多様化すると書かれており、若者から高齢者まで、自身の人生設計について考え、生き方や働き方が多様化してきている。

20173月に中小企業庁は「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業研究会提言」を公表した。20181月に厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定した。総務省の「平成29年就業構造基本調査」によると、副業就業者は、2007年には、103万人(雇用者全体に占める割合は1.2%)だったが、2017年には128.8万人(2.2%)となった。副業を希望する雇用者も増加傾向にあり、2007年には、299万人(5.2%)が2017年には385万人(6.5%)になった。

副業・兼業には、古くからある兼業農家や不動産賃貸、実家の商売の手伝いなどに加え、上記に挙げたユーチューバーたち、メルカリやヤフーオークションなど不用品販売、暗号資産やFXの売買、ブログのアフィリエイト、ネットワークビジネスなどがある。

このように副業・兼業が増えていくようになると、複数の仕事をする人たちの本業と副業・兼業の線引きが曖昧となっていくこともある。折しも国税庁は20228月に、副業の雑所得についてパブリックコメントを実施したところである。

個人事業主に課される地方税に個人事業税がある。事務所や事業所を設けて、法定業種の事業を行っている個人に課される税である。毎年315日までに前年中の事業の所得などを都道府県に申告することになっているが、所得税の確定申告や住民税の申告をした者は申告をする必要はなく、国税データをベースに課税される。個人事業主を事業別に分類し、物品販売業や請負業などに代表される37業種を「第1種事業」、畜産業・水産業・薪炭製造業3業種を「第2種事業」、医業や弁護士業に代表される30業種を「第3種事業」とし、不動産や事業によって得た所得から事業主控除額等を引いた金額に対して35%の税率を乗じている。個人事業税の課税業務については、国税と地方税のデータ連携が今後進む見込みだが、法定業種に該当するか、事業かどうかといった業種や事業性の確認が必要となる。70業種の法定業種が2007年度改正以降見直されておらず、また、新しい事業も生まれており、事業性は認められるが法定業種がない事例もあるので、法定業種を見直すか廃止をする必要があるのではないだろうか。併せて、事業主控除や税率の見直しも検討する余地があるだろう。

罰則による強制的納税よりも自発的納税の方が、コストがかからないという欧米の論文がある。自発的納税を促す策として、タックス・アムネスティという方策がある。筆者は従来からタックス・アムネスティについて調査をしており、本誌20114月号で紹介したことがある。これは、今まで納税をしていない潜在的納税者を発見することができる。一度、特定できれば、その後の納税・滞納状況は把握しやすくなるので、今後、増加が見込まれる個人事業主の特定の活用に検討してみてはどうか。