欧州の非鉄金属産業のCEO47名は、欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長、欧州議会のロベルタ・メッツォーラ議長、欧州理事会のチャールズ・ミシェル議長に宛てて、深刻化する欧州のエネルギー危機「存亡の危機」について警鐘を鳴らすための書簡を送った(関連記事、書簡)。
CEOたちは、業界がすでに昨年、エネルギー暴騰によって膨大な減産を余儀なくされたことを強調した。EUのアルミニウムと亜鉛の生産能力の50%が停止した。シリコンと合金鉄の生産が大幅に削減された。銅とニッケル産業にも影響が及んだ。
同書簡には、非鉄金属産業の閉鎖・縮小の詳細なリストも掲載されている。
CEOたちは欧州理事会に対し、補助金、エネルギー価格上限設定、排出権取引制度による炭素コストの最小化など、あらゆる支援策を取るよう要求している。
同書簡によれば、非鉄金属産業(アルミニウム、銅、ニッケル、亜鉛、シリコンなど)における電力コストのシェアは元々高く、通常の電力価格条件下において、生産コスト全体の40%に上っていたとされている。
域内での生産減少のため、欧州は域外からの輸入を余儀なくされている。亜鉛は中国から輸入しているが、中国での生産は、ヨーロッパの亜鉛生産に比べ炭素集約度が2.5倍だという。これはアルミニウムの場合は2.8倍、シリコンの場合は3.8倍とされる。
手塚氏の記事「ドイツ産業の皆さん、日本へようこそ」で解説されていたように、欧州、なかんずくドイツの産業は、ロシアからのパイプラインによる安価なガスとそれを利用した安価な電力によって繁栄を享受してきた。
今回のエネルギー危機を政府の救済によって何とか乗り越えたとしても、もう安いエネルギーの時代は終わっている。欧州は構造的な高エネルギー価格体質になってしまった。
日本の非鉄金属産業は、1973年のオイルショック以来、海外に比べて高いエネルギーコストに耐えられず、空洞化してしまった。アルミニウム精錬業は日本に存在しなくなった。
今後、欧州で非鉄金属産業が存続するためには、政府の手厚い支援を続けるほかない。だが未来永劫それを続けることには無理があるだろう。また欧州の脱炭素の方針も足かせだ。
他にも、肥料産業、ガラス産業なども危機的状況が伝えられている。ドイツをはじめとした欧州のエネルギー集約産業は、壊滅してしまうのだろうか。