政策提言  エネルギー・環境  2022.10.06

日本の原子力を再生するために

「次世代原子力をめぐる研究会」中間提言

この提言は、研究会の議論をベースに、メンバーの総意に基づいて、田中伸男座長が取りまとめたものである。

エネルギー・環境
田中 伸男

提言の要旨

問題意識

昨年のCOP26を通じて、カーボンニュートラルに向かう機運は盛り上がる一方で、本年2月にはロシアによるウクライナ侵攻がエネルギー需給にも深刻な影響を及ぼすなどグローバルなエネルギー需給やエネルギー政策をめぐる環境は大きく変化しつつある。このような中、原子力発電の役割が改めて注目され、再評価されてきている。

このような環境下、日本は特に再稼働以降の原子力の将来についてどう考え、何をしていくべきだろうか。この中間提言はこのような問いに答え、同時に原子力に関する広範な議論の引き金になることを目指したものである。

将来の原子力発電

我々は、原子力発電は将来の日本のエネルギーミックスに必要なエネルギー源であると考える。しかし、これまでの経験にかんがみれば、将来の原子力発電は次の3つの条件を満たす、従来とは非連続なものでなければならない。

1. より現実的な高レベル廃棄物処理

これまでの原子力発電は、大型の軽水炉とそれを前提とした核燃料サイクルにより成り立っている。このシステムでは、高レベル放射性廃棄物が生成され、それの地層処分には、数十万年にわたり人間の生活環境から隔離する必要がある。この核のゴミ問題は解決困難な課題となっており、結果として原子力に対する理解が得られにくい大きな理由の一つともなっている。一方、金属燃料サイクルのための乾式再処理技術は、プルトニウムに加えマイナーアクチニド(MA)を分離することで放射性廃棄物を300年の問題にすることに成功している。この技術は、TMI-2の燃料デブリと同じ成分の模擬デブリを用いて試験した結果、従来の再処理法ができないデブリ処理に成功した。即ち、福島第一原子力発電所の海水に曝された使用済み燃料と将来搬出される燃料デブリを同様に300年の放射性廃棄物に変えることができる。今後この技術を導入することで軽水炉システムがもたらす課題を回避できる可能性があることに留意すべきである。

2. 核不拡散への貢献

軽水炉サイクルは、他のシステムと比べて、高レベル廃棄物処分問題に加えて、核不拡散の観点からも課題が多い。軽水炉燃料に必要なウラン濃縮技術や使用済み核燃料の再処理技術は、核兵器につながりやすいものである。したがって、将来の原子力発電システムでは、できるだけこうした核拡散につながるような物質を生成しにくいものが求められる。また、新技術の発展とそれに伴う不拡散上のリスクに合わせて、核物質の管理体制も見直すことが必要であろう。

3. リスクミニマム

原子力発電のリスクをゼロにすることはできない。そのため、リスクミニマムの考えは重要である。万一事故が起こっても燃料インベントリ規模の小さい小型原子炉の方が緊急避難地域など影響を受ける範囲を小さくできる。また可能な限り安全にかつ早急に運転が中断するような受動的安全性を高める技術が必要である。この一環で、原子炉のデザインも可能な限り地域に受入れられるようなものにできれば、立地地域の理解が得られ住民参加が促される。

環境整備

このような原子力発電が必要だとしても、ふさわしい「環境」が提供されなければその実現・維持は困難であろう。したがって、次世代の原子力発電のための環境整備も同時に求められる。

1. 政治のリーダーシップ

今後日本が新しい原子力発電所を建設しようとすれば、これまでの核燃料サイクルを含めた原子力政策をレビュー・評価し、成果と教訓を明らかにした上で今後の展望をしめさなければならない。そのためにも、強力な政治のリーダーップが不可欠となる。今こそ政治は原子力と真摯に向き合い、日本の置かれた状況を客観視し、評価し決断をする時である。

2. 国の責任

国自らがより前面に出て、広範の専門家による透明性を持つ討議に基づいて、電力システムの中で、原子力発電所の必要性と原子力の今後のビジョンについて国民に明確に説明しなければならない。同時に、巨額にのぼる原子力発電に対する投資とリスクについて企業の経営上の合理性が得られるような、政策的な措置、法的手当、事業環境等を整備する必要がある。

3. 市民参加及び双方向コミュニケーション

エネルギー・温暖化問題は本来市民生活、経済活動等とも密接に関連する重要な課題である。原子力を含むエネルギー政策・温暖化政策の企画立案、実施の各段階で、議論に立地地域の市民の参加が確保されなければならない。またそのためにも、政策過程の透明性を増し、国は地方市民との間で双方向のコミュニケーションに努めなければならない。

4. 福島復興と原子力の平和利用

福島の再生のためにも、また福島を乗り越えるためにも、日本の原子力の再生が重要である。福島は、日本の原子力に関する科学技術の再挑戦を見守る場所にならなければならない。また、ヒロシマ・ナガサキの悲惨な経験を持つ日本が、安全保障を確保し、原子力の平和利用のモデルを示す意味でも、困難を乗り越えて原子力の利用を維持し続けることも大切な視点である。

以上

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