メディア掲載  国際交流  2022.09.07

米国/気がかりは「裏庭」中南米

電気新聞「グローバルアイ」2022年8月30日掲載

◆中国の急接近に警戒感/台湾情勢への反応注視

台湾情勢を巡る不確実性が高まっている。こうした中、813日付・英『エコノミスト』誌が表紙に中国の戦闘機パイロットの写真を全面に出して「ターゲット・台湾」と記した事に強い衝撃を受けている―全世界が極東に迫る危機をウクライナにおける危機同様に注視しているのだ、と。

こうした状況の下、内外の友人たちとともに米中両国が緊張関係の段階的緩和(ディ・エスカレーション)を適切に考案してくれる事を願いつつ語り合っている。その議論で、ある友人が「台湾危機は、極東から見れば、地球の反対側から勃発するかも知れない」と語った事が気になった。

彼は続けて「中国と南米との貿易額は米国を超えた。またメキシコを含む中南米との貿易額でも米国に迫る勢いで、その事を米国は気にしている」と語った。確かに米国にとって地政学的に最大の関心事は同国の“裏庭(バックヤード)”と呼ばれる中南米の動向だ。

 ◇ ◆ ◇

歴史的には、19世紀、欧州列強から“裏庭”を守るため、“モンロー・ドクトリン”を宣言した。また20世紀には、フランクリン・ルーズヴェルト(FDR)が最初の大統領就任演説で中南米との融和を念頭に“善隣政策”を強調した。確かに1930年代のコーデル・ハル国務長官やサムナー・ウェルズ国務次官の活動記録を見ると、中南米との関係改善に相当苦労している事が理解できる。

そして21世紀に入ると、米国の“裏庭”に“グローバル・サウス(全球南方)”という外交政策を標榜した中国が急速に接近しているのだ。そして今年4月、習近平国家主席は“グローバル安全保障イニシアティブ(GSI)”という国際安全保障の枠組みを米国に対抗する形で提案した。

こうした動きを「米国は座視できない」と友人たちは語っている。かくして我々はグローバルな視点から中国と台湾が中南米に送るシグナルと、それに対する米国の反応を分析・判断する必要に迫られている。

今年6月の第9回米州首脳会議や7月の南米南部共同市場(メルコスール)首脳会議でも、中国の影響が色濃く映し出されていた。特にメルコスール首脳会議では、加盟国の中で台湾関係を堅持する唯一の国パラグアイと、中露関係を重視する他の加盟国との間で調整が難航した。こうした事を反映して、ウクライナのゼレンスキー大統領によるビデオ演説をメルコスールは拒絶してしまった。

 ◇ ◆ ◇

筆者は以前米アスペン研究所で友人が語った事を思い出している。「ジュン、真珠湾攻撃の前年までは、米国国務省と陸海軍省の合同会議における中心的話題は中南米だった。特にドイツの戦略的影響に関する事項だった事を知っているかい? 当時コロンビアの空港にはドイツのルフトハンザ航空が就航しており、米国軍部はパナマ運河の空襲を恐れていたのだよ」と。そう考えると、1941314日午後445分からホワイトハウスで始まった野村吉三郎大使との会談で、FDRが日独同盟解消を促した事に納得がゆく―米国の真の敵は“裏庭”に忍び寄るドイツで、当時アジアの戦略的重要性は相対的には高くなかったのだ。

そして今、筆者は以前にも増してグローバル的思考の必要性を感じている。