メディア掲載  財政・社会保障制度  2022.09.06

新しいライフスタイルと地方税のあり方

月刊『税』(株式会社ぎょうせい)2022年9月号に掲載

税・社会保障

コロナ禍となり、多くの企業で在宅勤務やサテライトオフィス勤務などのテレワークが実施された。ワーケーションや二地域居住、地方移住も促進された。インターネットショッピングやデリバリーにより、どこでも生活は可能となり、電子書籍やネット配信、各種オンラインレッスンの充実で学習や娯楽、運動もどこでも楽しめるようになった。共働きと子育てが両立しやすく自分に合った新しいライフスタイルが可能となってきた。本稿では、テレワークやワーケーションがさらに普及した時を見据え、新しいライフスタイルに合わせた税制を考える。

日本は戦後の高度経済成長以降、東京一極集中と地方の過疎化が長年の問題である。地方では、商店街の衰退や空き家の増加、耕作地や山林の放棄などが起きている。UターンやIターンによって地方人口が増えるに越したことはないが、人口減少社会では、定住人口増加は望みにくい。近年、国は関係人口を増やすことに注力している。関係人口とは、定住人口でもなく、観光に来た交流人口でもない地域や地域の人々と多様に関わる者と定義されており、二地域居住者やワーケーション滞在者などが該当する。20213月には、全国二地域居住等促進協議会が設立され、202281日現在664自治体が参加している。

二地域居住やワーケーションでは、ゴミの発生や、道路・公園・公共交通・公共施設の利用のほか、消防や救急、防犯、教育も発生する。行政サービスの便益に対する非居住者の負担については、これまでも問題視され、別荘税や宿泊税などが作られてきた。

また、家屋敷課税は非居住者対応として作られたものである。従来の二地域居住の理由は、転勤による単身赴任や個人事業主の事務所開設、親の介護、子どもの教育、相続による実家の維持管理などである。これらの個人に対して、個人住民税の均等割を課す(地方税法2412号、29412号)。標準税額で年額5,000円(道府県民税1,500円、市町村民税3,500円)であり、「令和3年度市町村税課税状況等の調」によると、納税義務者218,844人で徴収額は77070万円である。

納税義務者が全国で218,844人ということは、実際には潜在的な納税義務者がもっといるのではないかと考えられる。家屋敷課税は申告制であるため、周知徹底を図るとともに、自治体の調査も強化した方がいい。調査の強化といっても潜在的な納税義務者を探すのは難しいので、不動産業者から土地家屋の売買賃貸情報を入手したり、企業から転勤移動情報を入手したりすることが考えられるのではないか。

今後、新しいライフスタイルの二地域居住やワーケーションが増えてきた場合には、行政サービスの便益と負担の関係性が問題になり、家屋敷課税の徹底や見直し、個人住民税の二地域間の配分、新税などが検討されるだろう。片働き世帯から共働き世帯が通常の世の中において、定住や住所、住民登録、家屋敷などの言葉の定義の見直しも必要になる。

その際には、実態把握をふまえた財政需要を勘案し、地方税原則である応益性や負担分任性、普遍性などを考慮し、財政全体からみた非居住者の負担を検討すべきである。

200710月の「ふるさと納税研究会報告書」では、税を分割する方式の可能性について、税の分割ではなく、寄附金税制によるとし、条例の効力の及ぶ範囲との関係からも、住所地以外の自治体に住民税の課税権を認めることはできないと整理され、ふるさと納税が生まれた。この時の議論も参考にすべきである。

二地域居住やワーケーションの場合は、実際に移動し、移動先の自治体で便益を受けているのだから、滞在日数による申告は可能と考えられる。消費税のように簡便な方法も用意するのもいいだろう。

個人住民税は「地域社会の会費」的な性格を有する税であるため、大小関係なく地域の便益を受ける者に個人住民税を課税すべきところであるが、消費実態をとらまえて、地方消費税率を上げるという手もある。その際に、地方消費税の配分問題も同時に解決するのはどうだろうか。