メディア掲載  エネルギー・環境  2022.09.06

途上国で化石燃料を禁止し、電力を奪う先進国ニッポンの「正義」とは?

かくて途上国は中露を頼る

現代ビジネス(2022年8月31日)に掲載

エネルギー・環境

「気候植民地主義」で途上国の芽をつむ

ウクライナの戦争に端を発したロシアからのガス供給不足によって、欧州でこの冬には停電の危機が迫るとされている。ドイツをはじめ欧州諸国は、液化天然ガスや石炭など、これまで忌み嫌っていたエネルギーの調達に躍起になっている。また石炭 火力発電所を可能な限り稼働させる手配をしている。

欧州が世界中で買い漁っているせいで、世界のエネルギー価格は暴騰している。

この煽りを最も受けているが、貧しい国である。化石燃料資源を持たない開発途上国は、いま悲惨な状態になっている。スリランカの経済が破綻し大規模デモがおきて政権が転覆したのは、数々の失政が重なった結果であるが、とどめの一撃となったのは燃料費の高騰でガソリンが輸入できなくなったことだった。いま世界の多くの国で、エネルギー価格の高騰によって、貧困がますます悪化している。

そのなかで開発途上国は、先進国のエリートたちによって、化石燃料のない「貧困に満ちた未来」への道を強制的に歩まされている。気候危機説を信奉する指導者たちが、開発途上国での化石燃料使用を抑圧しているからだ。

哲学者のオルフェミ・O・タイウォは、この現象を「気候植民地主義」と呼んでいる。それは「貧しい国の資源を搾取したり、主権を損なったりするような気候変動対策を通じて、外国による支配を強化すること」と定義される。

経済成長には安定したエネルギー供給が必須だった。それは石炭、石油、天然ガスによって賄われてきた。化石燃料は欧州、米国、日本、中国、いずれの工業化にとっても必要不可欠だった。

だがいま国際機関とG7先進諸国の主要な金融機関は、CO2排出を理由に、開発途上国の化石燃料事業への投資・融資を停止している。これは開発途上国の経済開発の芽を摘むものだ。

じつは日本もこれに加担している

622日に、日本の外務省はバングラデシュとインドネシアに対する政府開発援助(ODA)による石炭火力発電事業支援の中止を発表したCO2の排出が理由であり、G7の意向に沿った形だ。

ちょうどその同日、この夏の電力不足に対応するため、停止していた火力発電所の再稼働を急いでいる、とのニュースが流れた。千葉県の姉崎火力発電所5号機、愛知県の知多火力発電所5号機などだ。

自分の国で電力不足になると火力発電に頼る一方で、途上国の火力発電所は見捨ててしまうというのは道義にもとる。日本がいま電力不足なのは事実だが、バングラデシュほど慢性的に電力が不足し、停電が頻発して経済に甚大な悪影響を及ぼしている訳ではない。

開発途上国の化石燃料利用を禁止したうえで、今後は経済開発を再生可能エネルギーで実現しろと命じるのは、発電の物理的現実と何十億人もの貧困を否定する傲慢さを示すものだ。

サハラ以南のアフリカでは、6億人が電気を持たず、89千万人が薪炭や動物のフンなどの伝統的燃料で調理をしている。調理用の化石燃料を利用できる人はわずか14%だ。

じつはアフリカには膨大な天然ガスがある。600兆立方フィートの天然ガスが埋蔵されており、その3分の1はエネルギーに乏しいナイジェリアにある。これはアフリカのために開発すべきであり、先進国は全力で支援するのが道義だ。

化石燃料がなくて、何ができるのか

経済開発のためには、各国政府はエネルギーインフラに規模な投資をう必要がある。発電量の増加、公共送電網の改善、道路や冷蔵施設に対する支出により、企業はより多くの優れた雇用を創出し、生産性を高め、幸福と人間の尊厳を高めることができる。

のみならず、それは貧しい人々の自然災害への防災を助けることにもなる。教育、医療、住宅へのアクセスが改善された人々は、熱波や台風にうまく対処できるようになる。実際に、世界の自然災害による死者数は、過去100年間に激減してきた。今後気候変動が起きるかどうかはともかく、いますぐにでも起きうる災害に備えることがまずは優先事項で、気候変動への適応もその延長上以外にはありえない。

化石燃料は農業にとっても必須だ。アフリカの単位面積あたりの作物収量はアジアの10分の1に留まる。この収量を上げ、一定の耕作可能な土地でより多くの人々を養うためには、アフリカの農家はより多くの肥料を使わねばならない。化学肥料の標準的な製造方法は天然ガスを原料とするものだ。

同様に、大規模な灌漑にも化石燃料が必要だ。それにより、より少ない土地でより多くの人々に食料を供給し、森林破壊を減らし、近代農業への移行を可能にすることができる。

化石燃料はあらゆる経済開発の動となる道路の建設、食料、ワクチンなどの医薬品を保存するための冷蔵システムの構築、地方都市から都市への人々の移動のためのガソリンの供給も必要だ。

CO2削減」の矛盾をすべて押しつけて

19世紀、大陸横断鉄道が誕生したとき、アメリカは先住民から奪った土地を鉄道会社に与えた。同様に、地球温暖化への対応も、気候変動に伴う食料の生産や新たな政策の実行のために、広大な土地が必要となる。すでに世界各地で土地争奪戦が繰り広げられている

例えば、CO2削減のための植林に利用可能な土地の多くは貧しい国にあり、その国の中でも政治的な力の弱い人々が住んでいる。そのため、彼らは基本的なニーズを満たすための土地を、世界で最も権力を持つ国の強力な私企業と奪い合うことになりかねない。

ある研究機関は2014年に、東アフリカでカーボンオフセットとして使用するために森林の土地を購入し保全しようとするノルウェーの企業が、何千人ものウガンダ人、モザンビーク人、タンザニア人に強制立ち退きと食料不足をもたらしたと報告している。

モロッコには、ヌール・ワルザザート複合施設という世界最大の太陽光発電所があるが、国民の多くは電力供給を受けていない。

太陽光発電は、アフリカの人々に電気へのアクセスをある程度与えるかもしれない。だが北アフリカの多くの大規模な再生可能エネルギープロジェクトは欧州に電力を供給するだけで、サハラ以南のアフリカの人々は電力の恩恵を受けられない事態になりそうだ。

カリフォルニア州は再生可能エネルギー導入に熱心だが、メキシコのバハ・カリフォルニアから電力を輸入している。アメリカの送電網がメキシコや中米とのつながりを強めていくと、停電のおこる中米からアメリカに電力が輸出されるという事態になりかねない。

ドイツは「国家水素戦略」に沿ってアンゴラから水素をアンモニアに転換して輸入する計画を発表した。2024年には工場が稼働するという。だがアンゴラの貴重な電気を、ドイツでの水素エネルギー供給という贅沢のために使うのは正しいことか? その水力発電の電気は、貧しいアンゴラの経済開発のためにこそ使うべきものではないのか?

反逆を開始した指導者たち

開発途上国の国内には、海外から支援を受けた活動家が政治的圧力をかけている。南アフリカでは2021年に、エネルギー省のグウェデ・マンタシェ大臣が、1500メガワットの新規石炭火力発電の開発計画を放棄しないと裁判にかける、と言い渡された。

だが叛逆する指導者たちも増えてきている。6月、ニジェールのモハメド・バズーム大統領は、次のように述べた。

「アフリカは、2022年末までに外国の化石燃料プロジェクトに対する公的融資を打ち切るという西側諸国の決定によって罰せられている……我々は戦い続けるつもりだ」

「アフリカ大陸が天然資源を開発することを許可すべきだ。100年以上にわたって石油とその派生物を搾取してきた者たちが、アフリカ諸国が資源の価値を享受するのを妨げているのは、率直に言って信じがたいことだ」

バズーム大統領の言うとおりだ。天然の恵みで利用可能なエネルギー源を利用することは、すべての主権国家の譲れない権利である。それにアフリカの運命は、アフリカの人々によって決定されるべきだ。

燃料、肥料、食料といった必需品の「3F──肥料、食料も燃料多消費であることに注意──を、いま大量かつ安価に供給する能力があるのはロシアだ。だからこそ、先進国が呼びかけた対ロシア経済制裁に呼応した開発途上国は皆無だったのだ。途上国が正当に必要とするものをダブルスタンダードによって提供しなければ、途上国はロシア、そして中国に頼らざるを得ない。この帰結は、独裁主義が優勢な世界の到来という、おぞましい事態だ。