7月25日から29日まで、パリで世界経済史会議という国際学会が開催された。3年ないし4年に1回、世界のいずれかの都市で行われる経済史分野の学会であり、2015年には京都で開催されたことがある。
今回の世界経済史会議では、コロナ禍を受けて、対面とリモートのハイブリッド形式が初めて採用された。筆者は東京からリモートで参加し、その経験からいろいろと感じるところがあった。
まず、大会前日、現地組織委員会からの報告で、対面参加1100名、リモート参加300名と聞き、対面参加の比率の高さに驚いた。一方で、少なくとも筆者が参加した四つのセッションでは、南北アメリカ大陸やアジアに拠点を置く研究者にはリモート参加が多く、依然として長距離の国際移動にはハードルがあることを実感した。
それでも、数千キロ離れた日本から会議用のソフトウェアを使ってリアルタイムで研究発表をし、議論することができたのは、技術進歩の成果によるものであり、私たちが距離の壁を乗り越えつつあることを示している。
しかし、依然として課題もある。技術的な面では、インターネットの通信が不安定になったり、理由は不明だが、本来可能なはずの画面共有が突然できなくなったりする事態が散見された。また、ヨーロッパ、南北アメリカ、極東の間には大きな時差があり、セッションの時間割、発表の順序を考慮しても、生活時間との調整が難しい場合があった。
学会期間中の非公式の交流の役割も実感した。セッション後のランチやディナーの連絡がメールで届いたが、リモートの参加者は当然それらに加わることができない。固まっていない研究のアイディアやプロジェクトの計画に関する意見交換の場、あるいは機微にわたる学界事情に接する場として、こうした機会は重要である。
今回の学会で筆者が発表した論文の一つに1910~20年代のスペイン風邪が研究開発に与えた影響に関するものがある。それによると、共同研究の重要性が高い分野では、スペイン風邪は特許の登録数に大きなマイナスの影響を与えた。当時と今日とではリモートでの交流のための技術に大きな差があるとはいえ、対面での交流の意味は今日でも依然として残っているのではないだろうか。