ロシアによるウクライナ侵攻の直前まで、欧米諸国は「脱炭素」に邁進(まいしん)し、エネルギー安全保障をなおざりにしてきた。そのせいで、いま世界中がひどい目にあっている。
EU(欧州連合)はガス輸入量を4割もロシアに依存してきた。ドイツなどの「脱原発」に加えて、「脱炭素」のせいだ。石炭火力は縮小された。足元に埋まっていたシェールガスの開発は行われなかった。
その結果、風力発電とロシアからのガス輸入が拡大し、「風とロシア頼み」の状態になった。だが、昨年は風が吹かず、ロシアのガス頼みとなり、「これではガスの禁輸などできない」と欧州の足下を見たロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナに侵攻した。
慌てた欧州は、「脱ロシア」を進めるためとして、あらゆる化石燃料の調達に奔走している。
英国は新規炭鉱を開発する。ドイツは石炭火力のフル稼働を準備している。天然ガスの採掘もする。イタリアも石炭火力の再稼働を検討中だ。
欧州は、南アフリカ、コロンビア、米国からの石炭購入を増やしている。ボツワナからも輸入しようとしている。
欧州の大失敗のせいで、世界中のあらゆる化石燃料エネルギーが品薄になった。気の毒なのは煽りを受けた貧しい国々だ。
インド政府は燃料輸入に補助金をつけたうえで、石炭火力にフル稼働を命じた。さらに、100以上の炭鉱を再稼働し、今後2~3年で1億トンの石炭増産を見込む。炭鉱の環境規制も緩和した。ベトナムも国内の石炭生産を拡大する。中国は年間3億トンの石炭生産能力を増強する。これだけで日本の年間石炭消費量の倍近くだ。
欧州発の大問題のせいで、途上国はみな化石燃料と電力の確保に必死だ。
ところが、欧州の政府は「脱炭素」政策という誤りで世界に迷惑をかけたことを認めない。それどころか、先日ベルリンで開催されたG7(先進7カ国)エネルギー環境大臣会合では、今年末までに化石燃料事業への海外融資を停止すると合意してしまった。
だが、その一方で欧州が化石燃料の調達に世界中を奔走しているのは、完全に偽善だ。
ちなみにG7会合では、ドイツなどが2030年までの石炭火力発電の全廃を提案するなか、日本の反対によって年限については合意されなかった、と報じられている。「安全保障の観点から、日本に石炭火力が必要である」ことを堂々と交渉した方がおられたのであろう。
だが、もう一歩進んで、海外における化石燃料事業への政府支援を進め、苦境にある友好国を手助けすべきだ。日本の「世界一クリーンな火力発電技術」も大いに活用できる。