「脱炭素」の投資を進めるべく、岸田文雄首相の肝いりで構想された「クリーンエネルギー戦略」の中間整理が5月13日に発表された。まだ大きな方向性と項目が並んでいるだけだが、今年度末に向けて、政府は詳細を詰める予定にしている。
同戦略は10年間で150兆円、つまり年間15兆円の投資が必要とする。投資といえば聞こえがよいが、その原資は国民が負担する。
岸田首相の説明によると、そのうち年間2兆円分、10年間で累計の20兆円は「環境債」の発行で賄うとしている。だが、これは「カーボンプライシングまでのつなぎ」とされている。つまりはエネルギーに税金を掛けることを宣言しているようなものだ。
あとの年間13兆円分は民間の投資によるということだが、これも政府が規制や補助金で強引に誘発する民間投資である。電気料金の上昇は国民が負担することに変わりはない。
これには、あしき先例がある。太陽光発電はいま民間企業の投資で賄われているが、その投資の原資は、再生可能エネルギー賦課金として国民が負担している。これは年間2.4兆円に上っている。
クリーンエネルギー戦略の項目を見ると、さらなる再生可能エネルギー導入に加えて、電気自動車、水素利用など、既存技術に比べて莫大(ばくだい)なコスト増になりそうな項目がめじろ押しだ。これを規制で電力会社やガス会社に義務付けたりすると、結局は光熱費に跳ね返る。国民負担はどこまで増えるのか。
いまの消費税率は10%で、税収総額は約20兆円である。だから年間2兆円というと消費税率1%分に相当する。年間15兆円というとなんと消費税の7.5%分に相当する。
こんな大幅な増税を提案すれば、普通は国民の猛反対にあう。けれども、「クリーンエネルギー」と冠してあるからか、野党も大手メディアも全く無抵抗だ。
政府はこの「環境投資によって経済成長を目指す」としているが、本当に実現できるのだろうか。すでに光熱費上昇や物価高に苦しむ庶民の生活はますます貧しくなり、製造業は競争力を失い、経済成長など望めないのではないか。
ただし同戦略には、蓄電池工場、半導体工場、データセンターへの投資など、経済安全保障に寄与しつつ経済成長にもつながる項目も並んでいる。いまは世界諸国で政府による産業誘致合戦が行われており、日本としてもやらざるを得ない。
同戦略の項目については改めて精査をして、国民の生活と経済成長に真に資するものに限定すべきだ。その筆頭はもちろん原子力であり、再稼働に加え、リプレース・新増設も進めるべきだ。