メディア掲載  エネルギー・環境  2022.06.14

東京都の「太陽光パネル義務付け」はこんなにヤバい!カネ持ちだけが得して、一般国民が負担する「カラクリ」

現代ビジネス(2022年6月5日)に掲載

エネルギー・環境

「150万円でも元が取れる」は本当か

東京都は、524日に新築住宅への太陽光義務付けの条例案をまとめ、いま意見公募をしている。大手住宅メーカー約50社に対して、販売戸数の85%以上に太陽光パネルの設置を義務付けるというものだ。都内の新築住宅の半数強が対象になるとみられる。

国土交通省の資料を見ると、150万円の太陽光発電システムを設置しても、15年で元が取れることになっている。どうしてそうなるのか、調べてみよう。

資料自体は下図のようになっていて、計算は一応出ているが分かりにくい。

fig01_sugiyama.png

国土交通省資料より
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001402197.pdf

そこでエクセルを使って次の表のAとしてまとめてみた。

fig02_sugiyama.png

説明しよう。

まず、太陽光発電の年間発電量が6132kWhkWhはキロワット・アワーと読む。1キロワットの電気を1時間使ったら1kWhの電気を消費した、ということになる)。

そのうち3割にあたる1840kWhが自家消費される。それだけ電気を買わなくて済むので、家庭の電気料金25/kWhをかけて年間45548円の金額が節約できることになる。

残りの7割にあたる4292kWhは電力会社に売電する。最初の10年は21/kWhという高い価格で買い取ることを電力会社は義務付けられているので、これは年間90140円になる。

その後の5年は8/kWhで買い取ってもらうことを想定して、これは年間34339円になる。

このように、太陽光発電システムを設置する建築主は、自家消費分の電気代を減らしたり、電力会社に売電をしたりして、収入を得ることができる。

トータルすると、15年で1,581,827円の収入になって、確かに150万円の太陽光システムの元が取れる。

一般国民は1件で100万円の負担!

けれども、この裏には一般国民の負担が隠れている。

家庭では、天気によらず昼夜を問わず電気が必要だ。

だから、太陽光発電パネルを住宅に付けたとしても、太陽が照っていないときのために、火力発電所や原子力発電所は必要だ。送電線や、そこから電柱を伝って家に電気を運ぶ配電線も必要だ。

そうすると、太陽光発電を付けたことで国民全体が節約できるお金というのは、天気のよいときに火力発電所で燃料の消費量を減らせる分しかない。

経済産業省の発電コスト試算によれば、石炭火力とLNG火力の燃料費は平均してだいたい5/kWh程度と見通されている

一般国民にとっての価値を表のBで計算してみた。

fig03_sugiyama.png

ここでは、太陽光発電による電気の単価を5/kWhとしている。こうすると、15年の累積で459,900円にしかならない。これが太陽光発電のお陰で実際に国民が節約できるお金になる。

つまり150万円の太陽光パネルを購入すると、建築主は15年で元が取れることになっているが、じつは発電される電気の価値は化石燃料の節約分だけで、これは僅か約50万円しかない。残りの100万円超は「再生可能エネルギー賦課金」や電気料金の一部として、一般国民全体の負担になる。以下、表のAからBを引いたCの部分がそれだ。

fig04_sugiyama.png

まとめると、「東京に日当たりも良く広い家を買って、理想的な日照条件で太陽光発電パネルを設置できるお金持ちな人が、一般国民から100万円以上を受け取って太陽光発電を付け、元を取る」というのが、「太陽光発電義務化」の正体だ

なお、自家消費分まで本当は5/kWhしか価値がないとするのは、違和感を感じる方もいるかもしれない。だがこれを理解するには、25/kWhという家庭電気料金の意味を考えてみるとよい。

この25円という料金は、何時でもスイッチを入れれば電気が得られるという「便利な電気」の料金だ。この内訳としては、火力発電所があり、原子力発電所があり、送電線があり、配電線があり、その建設・維持のための費用がその大半を占めている。25/kWh5/kWhの差額である20/kWhがこれにあたる。この費用はいくら太陽光発電を増やしたところで全く節約できない。

もしもそれでも納得できなければ、文字通り電線を切ってしまって、配電線から自宅を「電気自立」させてみることを想像するとよい。

そうすると晴れているときしか電気は使えないので、ふつうの家庭生活はまず送れなくなる。バッテリーを沢山買って電気を貯めておくとすると、更にもっと費用がかかる。一週間曇天でも常時電気を使えるぐらいバッテリーを買っておくとなると、25/kWhなどよりも桁違いに電気代は高くなってしまうだろう。こう考えると、スイッチを入れればいつでも使える便利な電気が25/kWhというのはとても割安だ。

いま電力不足が日本全国で問題になっているが、太陽光発電を今以上に増やしても、関東地方の電力逼迫状況はまったく解決できない。肝心なときに発電するかどうか、頼りにならないからだ。

今年322日は、関東地方は危うく電力不足で停電になるところだったが、天気が悪くて太陽光発電はほとんど発電していなかった(竹内純子氏によるわかりやすい説明はこちら)。電力逼迫解消のためには、火力発電を維持・増強し、原子力発電を再稼働・増強していくしかない。

最後に、以上に加えて、太陽光を大量に導入すると、太陽が照った時に一斉に発電して、余った電気は捨てることになる。このときは事業用のメガソーラーの電気を捨てることになるだろう。すでに全国至るところでそのような事態が起きている。

また火力発電は太陽の気まぐれに合わせてオンオフを繰り返すことになって、傷みやすくなるし、発電効率も下がる。太陽光発電のために新たに送電線を作れば当然お金がかかる。これらの費用負担も、結局はみな一般国民が負担する。

お金持ち以外は元も取れない?

それに、家を買える人がみな元を取れるわけでもなさそうだ。

太陽光発電のためには、日当たりのよい場所で、南向きに程よい傾斜になった広い屋根が望ましいが、そんな家を建てる余裕がある人はどれだけいるのか。

東京に家を買うという場合、たいていの場合、ギリギリの敷地に、建蔽率や容積率等を考慮してパズルのように家を建てる。屋根の向きも思うに任せない。日当たりの悪いところも多い。

85%の住宅に義務付けるというが、思ったほど発電できなかったり、工事費が高くなったりすれば、建築主も損をする。結局のところ、庶民は、家を買っても買わなくても損をするのではないか。

経済性の他にも、災害時の危険性、廃棄物の問題など、いくつかの問題点が指摘されている。上田令子東京都議は「太陽光パネル義務化中止を求める知事宛請願書」を提出している

太陽光パネルはジェノサイドへの加担になる?

そもそも、そこまでして太陽光パネルを導入すべきなのだろうか。

いま、世界における太陽光発電用の多結晶シリコンの80%は中国製だ。そして、その半分以上が新疆ウイグルにおける生産であり、世界に占める新疆ウイグルの生産量シェアは実に45%に達する。

新疆ウイグルではジェノサイドが行われていることはますます明るみに出ている(福島香織氏の記事)。太陽光パネルの生産にも強制労働の関与が報告されている

米国は既に法律「ウイグル強制労働防止法」によって、太陽光パネルに限らず、この624日からウイグル製品・部品を全て輸入禁止にすることを決定している

いま太陽光発電を義務付けることは、ジェノサイドへの加担になりかねない。

さてこの住宅への太陽光パネル義務化の話は、もともと国土交通省で検討していたところ、無理があるとして見送られたものだ。小池知事は国がやらないとなると、ますます張り切るということなのかもしれないが、やはり、無理なものは無理ではなかろうか。

それよりも、国ができなかったこととして、新疆ウイグル自治区におけるジェノサイドの非難決議をした上で、新疆ウイグル産の製品の輸入禁止を国に訴えてはどうか。

そうすると太陽光パネルの値段はずいぶんと高くなるが、仕方がない。そもそも、太陽光パネルが安くなった裏には、強制労働というおぞましい実態があったのだ。

太陽光パネルを導入しようとする人々、そのお金を払おうという人々は、環境のため、ひいては人のために良かれと思ってやっているだろう。それが実はジェノサイドへの加担となってしまうのでは、本末顛倒ではないか。

あるいは、念願のマイホームにパネルを付けた後でジェノサイドへの加担と知るとしたら、むごいことではないか。実態をよく知ってもらうことなしに人々に義務付けるのは人道的に正しい事とは思えない。

太陽光パネル義務化の条例案については、624日までの期限で都が意見募集している。ホームページから読者も意見を出してみることを勧めたい。