コラム  国際交流  2022.05.26

『東京=ケンブリッジ・ガゼット: グローバル戦略編』 第158号 (2022年6月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない—筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

米国 欧州 ロシア ウクライナ

感染症の蔓延、ロシア・ウクライナ戦争、円安…不確実性を増す国際情勢の中、日本経済の行方が心配だ。

北極圏経由で英国から3年ぶりに来日した友人と、会食しつつ情報交換を楽しんだ。彼は円安下の日本を楽しんでいるという。だが、日本経済としては楽しい話ではない。対外金融資産の配当金・利子を除き、余り良い影響はない。何よりも消費者物価の上昇が一般家庭に与える影響が心配だ。感染症、戦争、為替、更には海外金融市場や中国経済…。見通し難い世の中だ。

マクロン仏大統領の再選に安堵したが、世界平和に対し彼のleadershipが貢献出来るかどうかは未知数だ。

選挙直前、衛星放送(TV5Monde)でマクロン対ルペンのTV討論を見始めたが、開始間もなく興味を失ってしまった。ルペン氏が愛国・庶民重視で熱く語る事は理解出来るが、“実現可能性”が見えてこなかったからだ。だが仏国民の中にルペン支持派が想像以上に多い事に驚きと疑問を感じていた。隣国の独有力紙Frankfurter Allgemeine Zeitungも筆者と同様の疑問を感じて、4月23日、ルペン氏支持の背景を探る長文の取材記事を掲載した(„Wo Le Pen die Hoffnung ist“)。同紙の記者は仏国ボルドー地方を訪問し、現地がルペン氏支持である事を報告した。ワインを愛する筆者はメドック地区が“内向き”ルペン支持である事に驚いたが、その理由はやはり国内経済格差だ—仏国の国立統計経済研究所(INSEE)によると貧困率は現政権時に悪化し、改善の兆しは未だ無い(p. 4の図1を参照)。

小誌前号で触れたが、米国は1943年テヘラン会談で戦後の平和を米ソ英中の“four policemen”で堅持しようとソ連に提案した。その時、フランスの国連常任理事国入りは考慮されていなかった。仏国の加入はヤルタ会談以降でのチャーチルの貢献だ。

戦後の欧州大陸がソ連の独壇場にならぬように、“自由主義の砦”としての仏国復活に努力した彼の事を、来年、創立50周年を迎えるHarvard研究所(HURI)所長のセルヒー・プロキー教授が記している(“To promote his vision of the French role in postwar Europe, Churchill masterminded the inclusion of France in the European Advisory Commission and the Security Council of the future United Nations organization.” Yalta: The Price of Peace)。

発足直後の独ショルツ政権の“決意”が見えてこない中、マクロン氏に対する期待は相対的に高い。とは言え、期待に応えられるかどうか、誰も確信を持てない。仏Le Monde紙は、“マクロン再選”後の5月2日に、政治解説「誰も分からぬマクロン第二期政権(«Nul ne sait à quoi ressemblera “Macron 2”»)」を掲載したが、それを読んで最初から噴き出してしまった—サミュエル・ベケットの名(迷?)作(En attendant Godot)が出てきた!! (要するに著者は“待ちぼうけ”の状態に怒りを感じている)。そして大統領が提唱した“欧州政治共同体(communauté politique européenne)”も、気の毒な程評判が悪い。彼の気持ちは分からなくもない。だが、仏国単独のleadershipでは限界があるのだ(これに関しては、小誌(No. 131, 2020年3月)で欧州の優れた文献を紹介している)。特に経済的な実力でドイツとの差が明らかな事が大きな“足枷”となっているのである(p. 5の図2を参照)。だが、図を見ていると、筆者はフランスより経済的パフォーマンスが見劣りする我が日本の事が気になって仕方がないのが本音だ。

プーチン大統領が始めた戦争は、世界中の人々の“世界観”を大きく変えてしまった。

欧州での戦争は重苦しい雰囲気を世界中に拡散させている。こうした中、英米、そしてトルコのthink tanksが発表した報告書に関し、内外の友人達と議論を続けている。①英国の王立防衛安全保障研究所(RUSI)は、ウクライナでの現地調査を踏まえ優れた分析を行い、②トルコの政治経済社会研究財団(SETA)は、現在注目を集めているドローン兵器(Bayraktar TB2)を解説し、③米国の戦争研究所(ISW)は中露の緊密な関係を注視しつつ台湾危機に関する考察を行っている(次の2を参照)。

グローバル化の深化で、各国の軍事力はglobal supply chainsに大きく制約を受けるようになっている。①の報告書には、露軍の兵器が米英独蘭韓台の企業に依存している点を示した資料が添付されている。そして今、米国はウクライナに対し、「武器貸与法」を以て軍事支援を実施する事を決定した。こうした理由からロシアは今後苦しい継戦努力を強いられるであろう。

かくして世界の安全保障体制が大きく変化している現在、軍事作戦を継続させる“経済力”・“技術力”が“戦力”同様に重視され、日本の防衛を考える時、我が日本の名目GDPの相対的縮小を問題視する必要があると考えている(p. 5の図3を参照。この図は名目ドル建て米国GDPを100としている。購買力平価(PPP)ではミサイルやジェット燃料は外国から購入出来ない点に注意されたい)。

バイデン米大統領の韓日両国訪問時、最初に訪問したのは韓国の半導体製造施設だった。米国の或る友人は次のように皮肉を込めて語った—30年前なら大統領は日本の工場を最初に訪問し、また中露両国も日本を恐れただろう。だが今のPentagonの研究・工学担当次官は台湾出身の徐若冰氏で、“電子立国日本”のイメージは薄れつつあるのだ。“Japan as Number One”も昔話となった、と。それは確かだがEurasianismの主唱者の1人、ロシアのアレクサンドル・ドゥーギン氏は主著(«Основы геополитики. Геополитическое будущее России»)の中で、日本の技術力を中国よりも高く評価している。今は「時間は未だ有る」と信じ、次世代のため我々が奮起する時が到来しているのだ。

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『東京=ケンブリッジ・ガゼット: グローバル戦略編』 第158号 (2022年6月)