メディア掲載  エネルギー・環境  2022.05.25

安定安価な電力こそ温暖化対策の基本 学ぶべき北海道の教訓

エネルギーフォーラム(2022年5月13日)に掲載

エネルギー・環境

今日はある会合で政府によるクリーンエネルギー戦略の説明を聞いていたが、脱炭素に向けて莫大な投資が必要という話になっていた。だが心配なのは、脱炭素政策のもたらす害である。もしも補助金や規制があふれかえるとなると、日本のエネルギーコスト、なかんずく電力コストは増々高くなる一方であろう。

日本政府は2030年までに温室効果ガスを46%削減、50年までに実質ゼロにするという目標を掲げている。そして、この実現のための柱の1つとしては、①電気のCO2原単位を低減し、②エネルギー利用の電化を進める――としている。

現在、日本のCO2排出の約3分の1は発電に伴うものだが、残りの3分の2は化石燃料の直接燃焼によるものだ。発電のCO2原単位を下げることでもCO2排出を減らすことはもちろん出来るが、CO2原単位が下がった電気で化石燃料の直接燃焼を代替することも重要なCO2削減手段になる。

だが電力コストを高くするようなことでは、いかなる部門においても、電化は絶対進まない。それでは、脱炭素もまったくおぼつかない。

日本政府はグリーン成長を掲げ、環境と経済を両立しつつ温室効果ガスゼロを達成するとしている。しかし現実は厳しい。一般的に言って、国全体の温室効果ガス、CO2をゼロにするという目標は技術的に極めて困難であり、それを目指すだけでも膨大な経済的コストがかかることが懸念される。

その中にあって、本当に環境と経済を両立できるのが、原子力発電の推進である。安価な電力を供給することで、電化を促進することも出来るし、それを通じて、さまざまなメーカーの参入を促し、電気利用機器の技術開発も進むことになる。

環境と経済の好循環 震災前の泊原発稼働下で実現

実はそのような好循環が、東日本大震災の前には、北海道に存在していた。09年には、泊原子力発電所の活用によって北海道の電力の35%程度が供給されていた。安価な夜間電力を活用して電化が進んだ。新設住宅着工戸数26758件のうち54%に上る14476件がオール電化を採択していた(図参照)。当時のオール電化住宅の電気料金は1kW時当たり11円程度、世帯あたり電力料金は年間26万円程度であった(オール電化住宅の電気料金はモデル世帯、給湯:電気温水器4.4kW、暖房:電気式蓄熱暖房器20.5kWについての料金。モデル世帯についての計算概要はhttps://www.hepco.co.jp/info/2014/1189782_1635.html

9頁を参照)。

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キャプション: オール電化実績 

ところが、東日本大震災の後、12年に泊原子力発電所が停止し、電気料金は上昇した。20年のオール電化住宅の電気料金は同18円程度、世帯あたり電力料金は年間42万円程度まで上昇した。オール電化住宅の着工は低迷し、20年には新設住宅着工戸数31339件のうちわずか6.3%の1972件がオール電化を採択するにとどまった。

なおこの低迷の一因には、18年に胆振東部地震が起き、北海道全域で大停電(ブラックアウト)が起きるという事態に見舞われたこともある。安定供給への不安があると、やはり電化は進まなくなる。だがこのブラックアウトも、泊原子力発電所を欠いて供給力が弱くなっていなければ、起きなかったものである。

かつてはそのまま大勢になるかと思われたオール電化住宅であるが、電気料金が高騰し、都市ガスなどに対するコスト競争力を失ったことが大きく響いて、すっかり退潮してしまった。もしも泊原子力発電所が運転を継続し、オール電化住宅が多く導入されていたならば、経済的なメリットのみならず、CO2削減には大幅な効果があったはずだ。

そして、いちど建設された住宅は何十年も使われ、既設住宅を改修して設備を入れ替えることは容易ではないという「ロック・イン効果」があることから、今後のCO2排出量にも長きにわたって大きく影響することになる。

教訓は明白だ。安定で安価な電力を供給することが、電化の鍵であり、脱炭素の鍵である。その電化が進む過程では、多くの企業が参入し、次々と新製品が投入されて、電化技術のイノベーションも進む。以上のことは、家庭電化だけではなく、電気自動車による運輸部門の電化や、産業部門における電化にも、もちろん当てはまる。

いまCO2削減のために、日本政府がなすべきもっとも重要なことは、原子力、化石燃料火力の活用、そしてエネルギー減税や再エネ賦課金の低減などによって、安定して安価な電力供給を実現することだ。火力発電はCO2は発生するが、安定して安価な電力供給を続けるためには必須のものだ。長期的には、原子力で置き換えていけばCO2の大幅削減は達成できる。


謝辞 本稿についてデータを提供頂いた北海道電力株式会社に感謝いたします。