メディア掲載 グローバルエコノミー 2022.05.18
Le Mondeに掲載(2022年5月2日)
キヤノングローバル戦略研究所 英文サイトに掲載(2022年5月13日)
この記事はアジア経済に関する月1回のコラムシリーズの1本として、2022年5月2日付けの仏ル・モンド紙に当初掲載されたものである。原文は以下のURLからアクセスできる:(翻訳:村松恭平) https://www.lemonde.fr/economie/article/2022/05/02/en-chine-l-arret-des-activites-les-plus-polluantes-debouche-sur-des-licenciements-et-a-un-impact-negatif-sur-les-salaires_6124459_3234.html
環境汚染が最もひどい中国の諸都市では、環境規制の強化が熟練労働者と未熟練労働者の間の収入格差を拡大させた——セバスチャン・ルシュヴァリエはこのコラムの中でそう指摘している。
中国は米国と並んで、経済成長による環境危機の最大原因となっている2カ国のうちの1つだ。しかし、環境汚染との戦いの観点で中国は何もしていないわけではない。大気汚染防止法が1987年に制定されて以降、中国政府は自国の環境規制を強化し続けている。
環境政策の結果は、最初の頃は非常に期待外れだった。たとえば、第10次5カ年計画(2001年〜2005年)の間にいくつもの措置が採られたにもかかわらず、二酸化硫黄の排出量は大幅に増加し続け、2005年から2006年にかけてピークに達した。
その主たる理由は、汚染防止措置の実施を担う公務員のキャリアが経済成長に連動していたために、地方レベルでの環境政策が経済成長を優先して歪められたからだ(Ming Qin, Lin-feng Fan, Jing Li and Yi-fei Li, "The Income Distribution Effects of Environmental Regulation in China. The Case of Binding SO2 Reduction Targets", Journal of Asian Economics no. 73, April 2021)。
したがって中央政府は、第11次5カ年計画(2006年〜2010年)の一環で新たなアプローチを導入し、主たる汚染物質の合計排出量を2010年までに10%削減することを義務的な目標として定めた。この枠組みにおいて地方当局はコミットメントを伴った契約を結ばなければならなくなり、目標が達成されない場合には中央当局が新規事業を停止させることができた。この新たな政策により、二酸化硫黄の排出量は2005年から2010年の間に14%以上減少し、明確な成功が見られた。
この期間に経済成長はさほど大きな影響を受けなかった。というのも当時、中国は世界貿易機関(WTO)加盟国という地位から多大な利益を得たからだ。しかし、2002年から2007年までを対象とした今回の調査が示しているように、その社会的影響については事情は異なる。
この4人の共著者は汚染防止政策の実施前後の期間のデータを比較し、さまざまな職種の労働者の給料の変化に対する影響を分析した。彼らはこうして、汚染防止政策による影響の不均質性を確認した。環境を最も汚染する生産活動の停止あるいは減少は解雇につながり、こうした活動が集中している中国の中部および東部の地域や町の未熟練労働者たちの給料にマイナスの影響を与えた。そのことが熟練労働者と未熟練労働者の間の格差を機械的に増大させる原因となった。
この研究者たちはこうした結果に基づき、いくつかの提言を行っている。
一方では、全国レベルで均質であり続けている規制によって、最も発展が遅れている地方がほかの地方よりも苦しまないよう、各地の発展レベルの差異を考慮に入れることが重要だ。
他方では、格差の増大を抑えるために、地方における環境補償基金を創設することがきわめて重要だ。最も未熟練な労働者たちが最も汚染の少ない産業へと移動し易くするために、この基金は彼らの職業トレーニングのための予算も含まなければならない。これは、彼らがエコロジー移行による大きな損失を負わないための基本的な条件である。
エコロジー移行は、フランスで「黄色いベスト」たちの蜂起が示したように、最も脆弱な人びとがそれに反対することなく、その影響に対処することができなければ実現され得ない。フランスと同様、中国でも世界の終わり[環境汚染]との戦いと月末を乗り切るための[生活苦境との]戦いは一つにまとまらなければならない。