昨年夏からこの春にかけて、IPCCの第6次報告が出そろった(第1部会:気候の科学、第2部会:環境影響、第3部会:排出削減)。
何度かに分けて、気になった論点をまとめていこう。
縄文時代は「縄文海進期」と言われ、日本では今より気温が高く、海面も高く、北日本は住みやすくて、縄文文化が花開いたことを以前に書いた(IPCC報告の論点㉔:地域の気候は大きく変化してきた)。
じつはこの時、日本海の向かい側のロシア沿海州も同様に、暖かく、住みやすく、文化が発達したことが最新の論文で報告された。
図の赤枠が調査地域。
この地域の地層中の堆積物を調べると、約8000年前から5000年前まで「現代の気温より2〜5℃高い」年間平均気温を記録していた。隣接する日本海の表面水温は現在より3〜6℃高く、海は現在より1〜1.5km内陸まで侵食し、海面は現在より2〜3m高い状態であった。
また日本の平安時代にあたる「中世温暖期」には、沿海州の地表水温は現在より1〜1.3℃高く、海水面は現在より1m高かった。
また、現在では凍結する沿岸海域も、縄文時代(完新世の初期から中期)にかけては凍結しなかったことが判明した。また、沿海州の、水温が現在より高い範囲でのみ生存する貝の一種が、現在より8,500年前から5,500年前まで繁栄していた。現在、この貝は調査海域の南500kmの暖かい海域に生息しているものだ。
日本の縄文時代にあたるころ、この地域でも、新石器時代の文化が繁栄した。
因みにこのときの大気中の二酸化炭素濃度は現在よりはるかに低い約265ppmであった。
「地球平均の」気温上昇はともかく、地域における気候は、大きく変動してきたのだ。
仮に今後、CO2などの排出によって地球温暖化が進むとしても、相当に極端な気温上昇でない限り、日本周辺の生態系は「経験済みの過去に戻るだけ」ということになりそうだ。
1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。