本論文では、対面での接触のコストが禁止的に高くなった、日本におけるスペイン風邪パンデミック(1918-1921年)に焦点を当てて、イノベーションにおける対面接触の役割を検討した。すなわち、独自に構築した特許の書誌データベースを用いて、パンデミックがイノベーションに与えた影響が、技術分野の特性とどのように関係しているかを分析した。具体的には、パンデミック以前に共同特許の比率が高い技術分野を「共同発明集約的技術」として、その技術分野と他の技術分野の間で、
パンデミックの影響がどのように相違するかをDifference in differencesの方法で検証した。その結果、共同発明集約的技術においては、パンデミック期間に特許申請が有意に低下したこと、この低下はパンデミック終了後も持続したこと、そしてこの低下は主に初めて特許申請をする発明者の減少によるものであったことが明らかになった。また生涯に多数の特許を申請した発明者は、キャリアの初期に共同発明の経験を持つ傾向があった。これらの結果は、発明者のキャリアの初期段階において同僚やシニア発明者と対面接触が減少することによって、新しい発明者の育成が阻害さrでることを示唆している。