メディア掲載  国際交流  2022.04.12

分岐する世界/グローバル化の特殊な進化

電気新聞「グローバルアイ」2022年4月5日掲載

国際政治・外交 欧州 ロシア ウクライナ

◆ウクライナ侵攻で鮮明/“世間知らず”許されぬ

ロシアのウクライナ侵攻によりグローバリゼーションが一段と、しかも特殊な形で進化を遂げつつある。すなわち“分岐”したグローバル化という進化だ。

今後も運輸通信技術の進歩でグローバル化が発展する。だが、従前のようにグローバル化が地球全体をおおいつくす形で深化する事はない。すなわち相手・分野を“限定化・選別化”したグローバル化なのだ。

こうした予兆は既に現れていた。例えば20203月、英国のシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)のナイジェル・インクスター氏が著書『ザ・グレート・デカップリング』を、今年1月、米国のシンクタンク、外交問題評議会(CFR)のエリザベス・エコノミー氏が著書『ザ・ワールド・アコーディング・トゥ・チャイナ』を著した。すなわち世界が中露両国が率いる世界と民主主義諸国が協力し合う世界とに制度的・技術的に2つに“分岐”した形でグローバル化すると彼らは語っている。

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2月末の露軍侵攻により、この“分岐”がさらに進化する時代を迎えている。日本がこれを遠い国での出来事として傍観し、座視する事は許されない。

読者諸兄姉同様、筆者はウクライナからの悲惨な映像を眼にして驚きと悲しみの毎日を過ごしている。だがそれ以上に驚いたのはドイツ首脳の言動だった。

ショルツ首相は連邦議会で今次戦争がドイツ外交にとって転換点となったと語り、それを強調するため「ナイーブ(独語ではナイーフ)を排する」事を繰り返し述べた。また陸軍最高の地位(総監)にあるマイス中将は「我が軍隊は多少の差はあるが無力だ」と語った。独語の「ナイーフ(NAIV)」は日本人が使う“ナイーブ”と全く異なり“世間知らずで思慮が浅い”という意味だ。かくして同国指導者はロシアに対し“浅慮で無防備であった”と公式に述べたのだ。

328日付『フィナンシャル・タイムズ』紙は、シュレーダー政権以降の“貿易を通じ関係改善を図る”政策が失敗に終わった事を記した。しかもNATO設定の国防負担目標をドイツは未達のままだ。

そして今、ハーバード大学欧州問題研究所(CES)で知り合ったポーランドの友人が語った言葉を思い出している。「NATOの中で国防に今真剣なのは僕の国やバルト三国だ。ジュン、ロシアの怖さをドイツは理解していないよ」

英国の友人は「メルケル前首相は露語が堪能なのになぜロシアの恐ろしさが分からなかったのだろう。ジュン、彼女が視野狭窄的な物理学者だからか?」と筆者に意見を求めた。

この突飛な質問に驚いた筆者だが、「詳しい情報がないので判断不能だ。ゼレンスキー大統領が語ったように彼女は経済問題を最優先にし、ロシアの歴史・価値観に詳しい側近を軽視したのかも」と答えた次第だ。

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ドイツの碩学ウルリッヒ・ベックは遺稿の中で、今は「飛行機に乗った事のない人はおろか、村から出た事のない人でさえ、当然のごとく、また避けられない事として世界と緊密に繋がっている」と語った。

“分岐”したグローバル化が進化する中、徹底した情報収集を行った後に冷静な眼で意思決定を下す時を我々は迎えている。