メディア掲載  グローバルエコノミー  2022.04.08

日本では今日、老人ホームでロボットが増えている

Le Mondeに掲載(2022年3月25日)

キヤノングローバル戦略研究所 英文サイトに掲載(2022年3月29日)

科学技術・イノベーション

セバスチャン・ルシュヴァリエ:社会科学高等研究院(EHESS)教授、日仏会館・フランス国立日本研究所(UMIFRE 19)研究員、キャノングローバル戦略研究所インターナショナルシニアフェロー

この記事はアジア経済に関する月1回のコラムシリーズの1本として、2022年3月25日付けの仏ル・モンド紙に当初掲載されたものである。原文は以下のURLからアクセスできる:(翻訳:村松恭平) https://www.lemonde.fr/idees/article/2022/03/25/au-japon-la-presence-de-robots-dans-les-maisons-de-retraite-est-aujourd-hui-en-croissance_6119144_3232.html


ロボット工学は要介護者のケアを向上させているものの、スタッフの労働条件の悪化にもつながっている——セバスチャン・ルシュヴァリエは本コラムのなかでそう指摘する。


日本の老人ホームでのロボットの活用は要介護高齢者のケアの向上に寄与していながら、ケアスタッフの雇用は削減されていない。だが、彼らの地位と報酬の悪化をもたらしている( « Robots and Labor in the Service Sector : Evidence from Nursing Homes », Karen Eggleston, Yong Suk Lee et Toshiaki Iizuka, National Bureau of Economic Research working paper nº 28322, 2021年1月)。

3名の経済学者(米国人と韓国人と日本人)によって提起されたこの特有の問題は、より広い問いにつながっている——人間がロボットに取って代わられ、雇用の大量破壊がもたらされるのだろうか?という問いだ。この議論は経済学者の間で活発になされており、技術的進歩による雇用と労働への影響というありふれた問題を彼らは再検討している。

日本の状況下では、この問題点は他国とかなり異なっている。というのも、いくつかの分野、特に高齢者向けサービスの分野で労働力が不足しているからだ。日本では移民政策が常に厳しく制限されており、人口の高齢化もますます進んでいる(今日、日本の人口の4分の1以上が65歳を超えている)。高齢化はケアとサービスの新たなニーズを生み出しているだけでなく、定年退職年齢の引き上げにもかかわらず労働供給を機械的に減少させてもいる。2025年には、高齢者のニーズに応える介護人材が38万人以上も不足すると見積もられている。

ロボットを活用している日本の老人ホームはその4分の1にも満たないが、今日その導入数は増加している。ただその大半は、たとえば転倒した場合にアラームを発する監視ロボットである。移動するのを手伝ってくれたり、患者の体を起こす際にケアワーカーを助けてくれるロボット、そして数はもっと少ないが、患者たちと対話することが可能な「社交」ロボットも存在している。

減少する正規労働者

この3名の研究者は2017年の間、900カ所の老人ホームと15万人以上の労働者に対して調査を実施した。ロボットの活用を原因とするケアスタッフの雇用数の減少がなかったことを彼らは指摘している。しかし、ほかの二つの結果が注目を引く。

一つ目は、全体の雇用数に変化がないとしても、非正規やパートタイムの労働者数が増えている一方、正規労働者の数は減っている。これは雇用の柔軟化の印である。

二つ目は、監視ロボットがますます担うようになった夜間の当直の時間数が減ったことで、ケア労働者の月給の減少が見られる。

この研究者たちは雇用量へのマイナスの影響がないことを示すことを重視しており、上記の報告を越えて、ケアスタッフの労働の悪化を示すこうした印について疑問視しない傾向にある。このことは、平均時給が極めて低い——最低賃金より少しだけ高い約7ユーロ——だけになおさら驚きだ。

「ソサエティ5.0」

したがって、高齢者ケアに役立つロボット工学あるいはほかのテクノロジーの導入によるメリットの可能性は否定しないが、介護スタッフが不足する状況下では、それらの導入を優先させることの妥当性については疑問視されうる。日本のこの状況は、オルペア・スキャンダル[仏オルペア社が運営する要介護高齢者施設(Ehpad)で入居者に対する虐待があったことが暴露された]を背景とするフランスの状況と無関係ではない。

これらの職業の魅力を高めるために、ケアスタッフの労働条件を改善することがより重要ではなかろうか? ロボットの導入の狙いは本当に労働力不足を補うことなのだろうか? あるいは、この分野の収益を高めることだったり、さらには、サービス分野においてロボット産業の新たな販路を見つけることだったりするのだろうか?

「ソサエティ(Society)5.0」に関する話が絶えず促進されている日本の状況下では、社会問題に対してテクノロジーによる解決策が常に存在するという⋯⋯。

たしかにテクノロジーは役に立ちうるが、その利用者とケアスタッフの福利の追求を優先とするイノベーション指針を作ることが何よりもまず必要ではないか?