メディア掲載  エネルギー・環境  2022.03.25

「温暖化予測は捏造だ」米国を代表する科学者が喝破

WiLL Online HPに掲載(2022年3月13日)

エネルギー・環境

NHKなど大手メディアはCO2が原因で地球の環境が危機に瀕しているという「気候危機説」を煽っている。日本政府は2030年までにCO2をおよそ半減し、2050年までにゼロにするという「脱炭素」を掲げている。だが「気候危機説」なるものにいったい科学的根拠はあるのか? この疑いを公言すると「懐疑派」とレッテルを貼られ、異端扱いされるのが日本の現状だ。そんな中、米国で気候危機説に反駁する書籍が出版された。「地球危機説」の欺瞞(ぎまん)とは――


欧米でも「気候危機説」に対する事情は似通っている。それどころか、ひとたび「懐疑派」にされると、執拗な攻撃を受ける。身に覚えのない罪をでっちあげられて訴訟される。大学の職を追われる。大学の建物に銃弾を撃ち込まれたなどという例もあった。

しかし、気候危機説に反駁(はんばく)する大物の科学者は後を絶たない。スティーブン・クーニンもその1人で、このたび、待望の邦訳が出た(『気候変動の真実』日経BP)。筆者は解説を書かせてもらった

気候危機説は「決着していない」

本書の著者紹介を見るとわかるように、スティーブン・クーニンは輝かしい経歴の持ち主で、間違いなく米国を代表する科学者の1人である。世界最高峰のカリフォルニア工科大学で筆頭副学長までつとめた。伝説の研究者団体JASONの会長も務めた。コンピューターモデルによる物理計算の権威でもある。

温暖化対策に熱心な米国民主党のオバマ政権では、エネルギー省の科学次官に任命されていて、気候研究プログラムも担当した。

クーニンに対して、非専門家だとか、政治的な動機による温暖化懐疑派だとかする批判はできようがない。

政治的な動機だけいえば、本書で書いてあるように、むしろクーニンは多くの政策において民主党を支持している。ならば、党派性からいえばむしろ気候危機説を煽るほうになる。

私利私欲だけを考えるなら、クーニンがこの本を著したのはまったく愚かなことだ。これだけの経歴があれば、かりに気候危機説に対して違和感を持ったとしても、適当に同調したり、口をつぐんでさえいれば、悠々と暮らすことができる。

そのクーニンが「気候危機説は捏造だ」と喝破したのが、この本だ。

原文のタイトル「Unsettled」とは、温暖化の科学は「決着していない」、という意味だ。

この本の見解は

  • もともと気候は自然変動が大きい
  • ハリケーンなどの災害の激甚化・頻発化などは起きていない
  • 数値モデルによる温暖化の将来予測は不確かだ
  • 大規模なCO2削減は現実的ではなく、自然災害への適応が効果的だ

といったものだ。

クーニンの憤り

じつは、本書はこれまで「懐疑派」と呼ばれて迫害されてきた研究者たちが書いてきたことと、内容的にはほぼ重なる。

謝辞でも言及されているジョン・クリスティやウィリアム・ハパーらは、逆風をものともせず、堂々と気候危機説への懐疑を繰り広げてきた。

本書は、これらの人々の研究成果も織り交ぜつつ、国連や米国の報告書において気候変動に関する「ザ・科学」がいかに捻じ曲げられているか、綿密な検証をもとに論じている。(ちなみに日本の環境白書でも科学は大きく捻じ曲げられている*)。

* 杉山大志《「気候危機」を唱道する環境白書 根拠なく危機あおることへの違和感》(「エネルギーフォーラム」2020年9月号)

可能な限り平易に書いてあるけれども、問題の複雑さから逃れようとはしない。したがって読むのはかなり大変だが、その価値はある。

災害に関する統計や報道は歪められて、気候危機があると説得するための材料にされている。

温暖化予測に用いる数値モデルは、雲に関するパラメーター等の設定に任意性があり、観測で決めることができない。このパラメーターをいじって地球の気温上昇の大きさを操作する「チューニング(調整)」という慣行がある。クーニンはこれを解説した上で「捏造である」と喝破している。

クーニンの執筆動機ははっきりしている。

科学が歪(ゆが)められ、政治利用されていることに我慢がならないのだ。温暖化の科学は決着しており、唯一の「ザ・科学」が存在するという見解は間違っている。「気候危機だ」と煽り立てるのは政治が科学を用いる方法として間違っている。何よりも、国連や米国の報告書が、科学的知見を歪めて報告していることに憤っている。

意図せざる共謀

クーニンは物理学者ファインマンに憧れてカルフォルニア工科大学に入学した。物理学出身者には、本書でも登場する同大学の故フリーマン・ダイソンを含め、温暖化の「ザ・科学」に批判的な研究者が多い。

私事ながら小生も物理学出身で、そこで批判精神をおおいに学んだ。そのおかげで気候危機説に疑問を持つようになり、クーニンと全く同じ動機を持ってあれこれ調べ初め、全く同じ見解に達した。本書でクーニンが言っていることに違和感は何一つなかった。

なぜ温暖化の科学は歪められ、政治利用されるのか。クーニンは、メディア、研究者、研究機関、NGO、政治家などが、それぞれの動機で動いた結果、意図せざる共謀が起きていると指摘している。

センセーショナルな見出しでとにかく注意を引きたいメディア、メディア報道が成果にカウントされて予算獲得や出世につながる研究者、危機を煽って収益につなげたいNGO、危機対策のリーダーとして振舞うことで得票を狙う政治家などだ。この意図せざる共謀の構図は日本でも全く同じである。

クーニンはこの是正手段を提案している。中でも興味深いのは、既往の報告に対して批判的な立場から検討する研究者集団である「レッド・チーム」を結成し、報告させることだ。

日本にもレッド・チームを

じつは「レッド・チーム」に近いものは米国と英国には存在する。

米国ではハートランド研究所などが母体となって、気候危機説に異を唱える研究者たちがネットワークをつくり、年次集会を開いたり、ネット上で情報提供をしている。議会の公聴会では、そのいわゆる「懐疑派」の研究者たちが毎年証言をしている。

そういった場があるおかげで、米国、とくに共和党の議員たちは本書で紹介されたようなデータを知っていて、気候危機説は嘘だと理解している。日本では、トランプ元大統領だけが異端児なので温暖化を否定するのだと報道されているが、そうではない。共和党議員は気候危機説など信じていないし、まして経済や安全保障を危険にさらすような極端な脱炭素には反対する。

英国では地球温暖化政策財団(GWPF)があり、そこが懐疑派の結節点になっていて、多くの報告書を出して、情報提供をしている。会長はサッチャー政権のときの財務大臣だったナイジェル・ローソンだ。

クーニンのレッド・チームの提案は、このような研究者集団を在野と留めておくだけではなく、国の正式な組織まで格上げすることだ。

こと温暖化に関しては懐疑論への迫害は酷(ひど)いものだが、それでもなお、まだ米国や英国には政治から独立した科学を大事にする根強い伝統があり、権力に屈することなく対立意見を発表することが尊重される風潮がある。

だが、同調圧力の強い日本では、いま気候危機説に表立って異を唱える学者はきわめて少ない。もちろん、「ザ・科学」に違和感をもつ人はたくさんいる。しかし、たいていは保身のために公の場では口をつぐんでいるか、あるいは出世のために気候危機説を積極的に利用している。この状況を打破するのは容易ではないが、クーニンの提案のように、日本でもレッド・チームをつくることを考えてみてはどうか。