ウクライナにおける戦争の行方は分からない。だが、その帰趨(きすう)にかかわらず、これから数年がかりで起きるであろうことを、貿易構造から予想してみよう。国際関係は複雑であり、 貿易構造だけから全てを予言できるわけではないが、あり得る大きな方向性を理解することができる――。
ソビエト崩壊以来、国内産業がまともに育たなかったロシアは、石油などの資源を輸出することで経済・財政が成り立っている。輸出先は欧州と中国等のアジアだ(図1)。
なお、本稿の図のデータは2019年のもので、金額の単位$Bは10億ドル(約1000億円)の意味。
他方、ロシアの輸入は機械などあらゆる製品にわたり、輸入先は欧州と中国等のアジアだ(図2)。
〈図1〉ロシアの輸出:石油等の資源を、欧州と中国等のアジアに($407B)
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〈図2〉ロシアの輸入:機械等の製品を、ドイツ等の欧州と中国等のアジアから($238B)
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さて今、ロシアが欧米による経済制裁の対象となっている。
経済制裁自体の即効性は不明ながら、今後、欧米はロシアとの貿易を減らしてゆくだろう。そうすると、ロシアにとっては、最大の貿易パートナーである欧州との取引が減少することになる。
この穴埋めをしそうなのが、中国だ。ロシアは資源輸出大国であり、機械等の製品輸入大国である。対する中国は資源輸入大国であり、製品輸出大国である。両者の利害は一致するわけだ。
いってみれば、ロシアと中国は自然なパートナーだ。
中国の貿易量は莫大である。機械等のあらゆる製品を、世界中に輸出している(図3)。 中国の輸入は、石油などの資源と機械などの製品を、世界中から輸入している(図4)。 今のところ、ロシアのウェイトは少ない(輸出が1.83%、輸入が3.69%)が、今後、貿易パートナーとしてロシアのウェイトを高めるだけの懐の深さを、中国は十分に持ち合わせているだろう。
〈図3〉中国の輸出:機械等の製品を、世界中に($2570B)
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〈図4〉中国の輸入:石油等の資源と、機械等の製品を、世界中から($1580B)
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とくに、重要な貿易品である石油・ガス等の鉱物燃料(原油、石油製品、天然ガスなど)について見てみよう。
現状では、中東とロシア等が輸出に回り、中国等のアジアと欧州が輸入に回っている(図5)。欧州は域内の貿易も多いが、足りない部分はロシアから輸入している。 北米大陸は、米国・カナダ・メキシコの間で輸出入をして、だいたいバランスが取れている。
〈図5〉石油・ガスの貿易/左:中東・ロシアが輸出($2210B)、右:アジア・欧州が輸入($2210B)
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ロシアの石油・ガスは、欧米や、その友好国である日本・韓国などが買わなくなれば、やはり中国へと向かうことになるだろう。
つまり、これまでは欧州に向かっていたロシアの石油・ガスが中国へ向かい、中国はロシアから買った分だけ中東などからの輸入に頼らなくてよくなるわけだ。
石油・ガスの貿易の流れが一変することになる。
このように、貿易構造から見ると、今後は、欧米がロシアとの経済的結びつきを弱めるにしたがって、ロシアは中国との経済関係を深めてゆくことが予想される。
そうすると、資源国ロシアと工業国中国は自然なパートナーとして互いの不備を補い合い、共に発展することになる。そのような展開になったとき、欧米と日本に、対抗する能力はあるのだろうか。
ロシアだけであれば、欧米は経済的に封じ込めることができる。ロシアは軍事大国・資源大国ではあるが、国力はそれほど強くない。人口は1億2000万人にすぎず、 経済規模はイタリア程度しかない。しかも、紛争をあちこちに抱えている。工業生産力は乏(とぼ)しい。
だが、これが中国と結びつくとなると、強大な勢力になる。
ドイツも、日本も、米国も、中国とは深い経済関係にある(図6、図7、図8)。
これを断ち切ることは容易ではない。
〈図6〉中国対ドイツ/左:中国は機械を輸出($97B)、右:ドイツは車を輸出($107B)
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〈図7〉中国対日本:互いに機械等を貿易(左:中国の輸出 $152B、右:日本の輸出 $128B)
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〈図8〉中国対アメリカ:互いに機械等を貿易(左:中国の輸出$429B、右:米国の輸出$103B)
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ドイツ・日本・米国はいずれも自動車を輸出し、その部品を輸入している。その他には、化学製品や製造機械・計測機械などの、ハイテク製品を主に輸出している。 またこの図だと機械等の輸出入は双方向に行われているが、中国の輸出は、コモディティである家電製品などが多い。
つまり「露中同盟」には、ハイテク以外は何でもある、ということになる。
だとすると、露中同盟に対抗するためには、ハイテクを掌握しておくことが重要になる。中国もすでにかなり力を付けつつあるが、まだ弱い。追いつかれないようにしないといけない。
あるいは、ハイテクを手に入れるために、中国は、台湾、韓国、そして日本に触手を伸ばしてくるかもしれない。要注意である。