コラム  国際交流  2022.03.01

『東京=ケンブリッジ・ガゼット: グローバル戦略編』 第155号 (2022年3月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない—筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

中国 欧州 ロシア

先月の北京オリンピック開催時、時差に悩まされずに国際中継を観れた事を喜んでいた。

2月4日に展開された中露両首脳によるオリンピック外交に関し、友人達と議論を続けている。筆者は外交部の趙立堅報道官が1月27日に語った言葉に言及しつつ語った—「趙氏は“ロシア等はスポーツの政治化に強く反対している(俄罗斯…重申反对体育政治化)”と語ったが、Olympicsを最大限に政治化しているのは中露だ」、と。中国は北京が史上初の夏冬両大会開催都市(双奥之城/dual Olympic city)である事を内外に喧伝し、愛国精神の昂揚に懸命になっていると、筆者の目には映っていた。

考え方を変えれば“平和の祭典”こそ国際関係上最大の“政治的”行動の一つであり、その政治的な“宣伝効果”は比類ないものだ。例えば1936年のBerlin Nazi Olympicsでは、ドイツのユダヤ人迫害を問題視して、米国では選手団派遣に反対する動きもあった。だが、戦後IOC会長に就任する親独派のブランデージ米オリンピック協会(USOC)会長が反対意見を制して参加を決定したのだ。

翻って1940年夏冬両大会(東京・札幌)の開催を控えた日本は、事前の準備・視察を兼ねて参加をした。そして日本のメディアは「オリンピック設備に随喜の涙をこぼし、日本選手を褒めそやすしか能がな」く、「完全にナチスのプロパガンダに風靡され」、慶應義塾大学の池井優名誉教授は、ご著書(『オリンピックの政治学』 1992)の中で「知らず知らずのうちに日本の読者をドイツの信奉者にかえていった」と記された。当時のドイツでは“非アーリア系(nichtarisch)”民族に対する蔑視が強くて、日本の選手団が入場行進した時、ドイツの観衆は関心を示さなかった。しかもヒトラー総統は経済計画(der Vierjahresplan)立案に忙しく、レアアース等軍事物資調達のため、東洋では政府にとり日本よりも中国が重要だった。また軍部もフォン・ゼークトやファルケンハウゼンといった将軍を蒋介石の顧問として派遣していた事から、ルードヴィッヒ・ベック参謀総長は日独関係に対して否定的な見解を示していたのだ(ベルリン大会直前の陸軍参謀本部報告書(Bericht des Generalstabs des Heeres, 16. Mai 1936)は衝撃的だ!!)。

さて中国経済は減速したとは言え、他国を圧倒する勢いを維持している。米国の重要な同盟国イスラエルも、輸入額で対中が対米を昨年初めて越えた(次の2参照)。またインドのEurasian Times紙は「米国のbackyard(中南米)を中国が狙っている」状況を警告した(小誌前号の2参照)。そして今、2024 Olympics in Parisが1940 Olympics in Tokyoと同じ運命(“幻”)にならない事を願っている。

目まぐるしく動き、しかも厳しい国際関係のなか、海外政治経済動向を注視する事を忘れてはならない。

先月12日、独Frankfurter Allgemeine Zeitung (FAZ)紙上のキャプションに驚いた—「露、戦争準備完了(Russland ist bereit für einen Krieg)」。しかしながら海外の友人達から届くメールを通じて推し量る緊張度は様々だ。正直に言えば、ウクライナから遠く離れた日本で現地の緊張度を感じる事は不可能だ。こうしたなか英Financial Times紙が先月2日に専門家の意見をまとめた記事に微笑んだ。侵攻の際、先導役と想定される世界最大の空挺部隊(ВДВ/VDV)は別として、筆者の関心はハイテク戦争の危険性だ。これに関し、モスクワのthink tank(戦略技術研究センター/Центр анализа стратегий и технологий (CAST))のプーホフ所長の見解に笑ってしまった。

露軍はエレクトロニクス等のハイテク技術に関しNATO側に比して劣るものの、従来型ミサイル技術等、冷戦時代以来の通常兵器は依然として優秀で、その威力は今も変わらない。同所長は「我が国の(優れた)人が例えばMITに留学した後、帰国した事例を数多く聞いた事があるかい? 私には無いよ (Have you heard of many cases where our people went to study at, say, MIT and then returned to Russia? I haven’t)」とFT紙に語っている。

毎日のように様々な分野における人工知能(AI)に関する情報が筆者のところに届いている。

先月9日、ジュネーヴの世界保健機関(WHO)がAI分野—特にアルゴリズムとデータの偏り(bias)—に関して報告書(Ageism in Artificial Intelligence for Health)を発表した。その前日、米国のマイケル・クリラ陸軍大将は連邦議会上院軍事委員会で証言し、軍事分野でのAIの有効性を力説した。その直後の12日、Defense News誌が、イスラエルのAI軍事戦略を報道した。そして16日、Googleの元CEOであるエリック・シュミット氏がAI研究に関し新たな試みを開始する事を英Financial Times紙が伝えた(次の2参照)。

今後、日本は高齢化等の全地球的課題を解決するためAIの平和利用を推進すべきだ。従って制度・組織及び個人の意識・能力を改革するため、日本の現在の長所(高性能のindustrial robotics)と短所(脆弱なICT networks)を再検討すべきであろう(p. 4の図参照)。

WHOの報告書に関し、英国の友人が皮肉っぽく筆者をからかってきた—「報告書は高齢化とAIが抱える倫理やガバナンスに関する問題に触れている。何年か前にジュンは僕等の前で日本のICT GovernanceとAIの話をしたよね。でも高齢化が最も進んだ日本の研究者達の話はこの報告書の中に一つも言及されてない。大丈夫?」、と。確かに報告書が挙げている24の参考資料の中に日本発の資料は無い。その時、筆者は2019年にCambridge大学で、友人達の前に語った事を思い出していた。その話とは次の通りだ:

「全ての分野のアルゴリズムで日本が最先端に立つ事は不可能だ。でも画像認識等幾つかの分野ではAIの利用に関して最先端に立つ事が出来ると思う。ボク個人としては①ゴミ分別で常に迷うから“ゴミ分別AI”が欲しい。また②幕末の蘭学者、高野長英が哲学者のライプニッツの業績を知っていたと言うので彼の全集(第4巻)を買った。だがその本は彼自身の毛筆書きでボクには判読出来ない。だから“古文書解読AI”が欲しい」。

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