メディア掲載  グローバルエコノミー  2022.02.24

中国での日本企業連携の核、中国日本商会の機能強化を

日本企業の情報収集・発信力強化の大きなメリット

JBPressに掲載(2022年2月18日付)

中国経済

1.中国進出企業の商会組織、主な活動

中国に進出している主な日米欧企業はそれぞれ自国企業の団体である中国日本商会(会員企業<北京のみ>589社:20214月)、中国米国商会(約1000社)および中国EU商会(約1700社)などに所属している。

上記3団体は北京に本部を置いているが、北京以外の主要都市にもそれぞれ独立した商会組織がある。

たとえば日本企業の上海の組織は上海日本商工クラブ(同2216社:202012月)、米国企業の上海の組織は上海米国商会(約1300社)といった名称である。

これらの中で、中国日本商会、中国米国商会および中国EU商会は中国ビジネス環境に関する会員企業の意見などをそれぞれが取りまとめて毎年白書を作成し、中央および地方の中国政府に対して投資環境の改善要望等を提出している。

また、米国商会とEU商会は会員企業を対象に中国ビジネスに関するアンケート毎年実施し、調査結果を整理して公表している。

この公表資料は欧米企業の中国市場への取り組み姿勢を理解する上で重要な資料となっている。

毎年ほぼ同じ質問に対する回答が示されているため、時系列の変化も読み取ることができる。

2.中国政府は商会組織の要望内容を重視

中国政府は日米欧の主要企業によって構成されている商会組織が発信する情報を重視している。

前述の中国日本商会の白書は、貿易、投資、競争法、税務・会計、労務、知財、環境、技術標準、物流、政府調達など広範なテーマをカバーしている。

産業分野別、地域別にも論点を整理し、それぞれの分野について日本企業から中国政府に対する実務的な具体的改善要望を列挙している。

元々中国米国商会はこうした要望を中国政府に提出し、中央・地方の中国政府に対して代表メンバーが白書の内容を説明し、ビジネス環境の改善要望を続けており、中国政府もその活動を重視していた。

筆者が北京に駐在していた2000年代後半に中国日本商会も米国商会の活動を参考にして日本企業による白書の作成を開始した。

中国日本商会の白書も毎年作成・公表を積み重ねるうちに、次第にその個別要望内容を中国政府幹部が注目するようになり、投資環境の改善に役立っている。

最近は李克強総理も日本の白書を評価していることが明らかになったため、各地方のリーダーも白書に書かれている具体的な改善要望を真剣に検討するようになっていると聞く。

こうした状況を踏まえて、中国各地の日本商会は地元の中国地方政府とのビジネス環境に関する意見交換の場において具体的な要望を提出している。

たとえば上海では上海日本商工クラブの代表者とジェトロ上海の幹部等が連携し、必要に応じて上海総領事館の支援も得ながら上海市政府に対してビジネス環境に関する改善要求を伝えている。

上海市政府と日本企業代表者の間で開かれる重要会議では、上海市の副市長自身が関係各部門の責任者とともに会議に出席し、各部門の責任者が日本企業からの要望事項に関する対策実施・検討状況を発表する。

政策措置の中身が不十分と評価される場合には追加的な改善措置をとるようその場で副市長から関係部門に対して指示が下される。

外資企業の中国ビジネスに関わる新たな法令案が公表される際には、中国政府がパブリックコメントを求めて意見交換の会議を開くことも珍しくない。

3.地方政府の外資企業誘致姿勢が積極化

以前はこのような場で率直な改善要求を伝えると、会議終了後に地元政府関係部門の責任者や担当者から改善要求発言をした日本企業が嫌がらせを受けることがよくあった。

当時はこうした要望は地方政府の政策に対する批判的な姿勢と受け止められていた。このため、日本企業は公の席で改善要求をすることに慎重だった。

しかし、この数年は各地の中国政府が外資企業の誘致姿勢を一段と積極化させ、外資企業の具体的な要望に対して真摯に耳を傾け、要求を満たすよう投資環境を改善する姿勢が定着してきた。

その背景には優良な外資企業の誘致の成功が地方政府の政策運営に関する重要な評価基準となったことが影響している。

このため、各地方政府が競って外資企業の要望を積極的に取り入れ、ビジネス環境を迅速に改善し、外資企業にとって魅力的な環境を整備することに注力している。

その結果、地方政府の最高幹部層が出席する重要会議の場において率直な意見を述べても、関係部門から事後的に嫌がらせを受けることが少なくなった。

数年前に始まったその変化が急だったため、当初は日本企業も半信半疑だった。

しかし、最近は日本企業も地方政府高級幹部が出席する重要会議の場で率直に意見・要望を述べるようになってきている模様。

これに対して、欧米企業は元々要求を率直に伝えていた。

それは欧米政府が自国企業を手厚くバックアップしており、欧米企業が中国政府から不利な扱いを受けると欧米政府の責任者が中国政府に対して直接抗議するといったサポートがあったためである。

日本政府は以前から個々の日本企業が直面するビジネス実務上の具体的な個別問題解決のサポートには積極的でなかった。

このため日本企業は日本政府に頼らず、自力で問題解決を図ることが多かった。

その場合、中国政府の意向に逆らうとデメリットが大きいため、日本企業の中国政府に対する要求姿勢は欧米企業に比べて控えめだった。

その背景には、日中関係が悪かったこともあり、日本政府が関与すると中国政府側が感情的に反発して問題がかえって深刻化し、逆効果になることが多かったことも欧米との違いだった。

しかし、最近は日中関係よりむしろ米中関係の方が悪化しているほか、中欧関係も難しい要素を含みつつあるため、日本企業の置かれている状況と欧米企業との差がなくなってきている。

4.日本商会と米国・EU商会の機能比較

それでも米国・EUの商会と中国日本商会の機能を比較すると、依然日本商会が見劣りすることは否定できない。

たとえば、米国・EU商会は毎年、会員企業を対象にアンケートを行い、中国ビジネス環境評価を実施しているが、日本商会は実施していない(ジェトロが類似のアンケートを実施し公表している)。

白書の作成やビジネス環境の分析に関しても日本商会には高い専門性を備えた専門家スタッフがいない。

これに対し、米国・EU商会は中国経済通のエコノミストなど専門家をスタッフとして抱えており、中国のビジネス環境を継続的かつ詳細に分析し、白書の内容にも反映させている。

筆者が北京に出張する際にはそうした米国・EU商会の専門家スタッフと意見交換することもあるが、彼らの中国経済に対する理解は深い。

こうした専門家スタッフを抱えるには、そのために必要な費用を負担する予算が必要だが、日本商会の予算規模は欧米の商会に比べてかなり小さいと聞く。

欧米の中国商会と中国日本商会の一番大きな違いは、欧米の商会の会長が数年以上の任期となっていることである。

しかも、中国語が堪能で、中国政府と直接交渉もするし、政府高官との人脈も構築する。

中国日本商会の会長の任期は単年度の輪番制となっており、毎年会長、副会長が交替する。これは、中国政府との交渉ノウハウの蓄積や人脈形成の面で明らかに不利である。

米国・EU商会のようにトップの任期が数年以上であれば、年数回の重要会議で議論を重ねる中国政府幹部との人的パイプが太くなるほか、現地の大使館・総領事館との連携もよりスムーズになる。

会長のメディアでの露出も増えて情報発信力が高まるため、記者会見などでの発言は全世界に報道されるようになる。

米国・EU商会の会長は定期的に本国に帰国し、政府関係者、経済団体、メディアなどを対象に講演会や意見交換の面談等を実施する。

その内容は国内および全世界に報じられ、本国政府の通商・外交政策にも影響を及ぼす。このため本国政府も商会幹部の意見、要望、提案等を重視する。

以上のような情報発信力の面では日本商会の影響力は欧米の中国商会に及ばない。

最近は、厳しい米中対立の長期化を背景に、経済安全保障をめぐる問題が日本企業の経営判断に影響を及ぼすことが増えている。

この経済安保の問題については、欧米企業に比べて、日本企業の懸念の方が強く、より慎重に行動しているように見える。

それは中国現地の日本企業と本国政府との情報共有のパイプの違いも影響している。

もし日本商会が欧米商会並みに強力な情報発信力を備え、日本政府や中国政府と常時緊密な関係を保持していれば、経済安保の問題に関する判断基準も明確になり、米国政府や日本政府に対する忖度の必要がなくなる。

これが中国国内市場における欧米企業の積極投資姿勢と日本企業の慎重姿勢の格差の原因にもなっている。

5.中国日本商会の機能強化に関する提案

中国日本商会の機能強化の必要性は以上の議論から明らかである。そこで以下の機能強化策を提案したい。

1に、会長・副会長の単年度の輪番制を改め、経団連や経済同友会のように正副会長の任期を数年間とする仕組みに改める。会長には中国語が堪能で中国政府と直接交渉ができる人物を選ぶことが望ましい。

2に、事務局にはエコノミスト、税務・会計、知財保護等の専門家を複数抱えて、常時中国のビジネス環境に関する日本企業の課題、要望を整理してリポートを作成し公表する。中国政府との重要会議においては日本商会幹部の発言をサポートする。

3に、毎年1回、会員企業を対象とするビジネスアンケートを実施して結果を整理して公表する。

4に、会長などは毎年23回またはそれ以上、日本に定期的に出張し、日本政府、経済界、メディアなどに中国ビジネス環境の実態、日本企業のビジネスアンケート結果、日本企業の課題や要望事項などを説明する。

以上のような新たな枠組みで中国日本商会の組織を強化すれば、米国・EUの中国商会と肩を並べる強力な情報発信機能と対中国政府交渉力を備えた組織へと発展することが期待できる。

同時に日米欧の商会組織間の連携強化による中国政府への交渉力向上も期待できる。

以上の施策を支えに、多くの日本企業の中国ビジネス展開が円滑に拡大し、日本企業の競争力強化と収益力拡大が促進される。早期にそうした改善が進むことを期待したい。